本日、福岡高裁で開かれたよみがえれ!有明訴訟の口頭弁論における馬奈木弁護団長の意見陳述を紹介します。

農水省の使命は漁業も農業も護ることであり、いたずらに最高裁判決を求めることではない

農水大臣は、「開門を命じる確定判決と、開門を禁じる仮処分決定と二つの裁判所の命じる義務が衝突しており、いずれに決定することもできない。最高裁がいずれかの統一的見解を出すまで裁判を続ける」と主張しています。この主張は一見もっともな言い分の様ですが、しかし実は国民を欺き、いつまでも税金を無駄使いし続ける、という宣言なのです。本当に国は開門の是非についていずれとも決定していないのでしょうか。
まず、開門を命じた福岡高裁判決を受け入れ、上告しないことを政府が決定した時点で、国は明確に開門することを決定し、原告漁民をはじめとする国民に、そのことを約束したのです。しかし、驚くべきことに実務を担当する農水官僚はその政府の決定にもかかわらず、開門に徹底して抵抗し、開門に必要な作業を遅らせ続けました。現時点で「いずれとも決定できない」と言う態度は、実はこの開門を命じた確定判決を受け入れた政府決定を、勝訴原告たちには何の手続きも取ることなく、一方的に勝手に変更し、「開門しない」と新しく決定し直したことを意味しています。このような政府の勝訴原告や国民に約束した決定が、その後の政府の都合によって一方的にころころと変わることが許されるはずはありません。そもそも開門という行為は政府がその決定をし、実行に着手しない限り、絶対に開門にはならないことは自明です。いずれとも決定しない、ということは開門しない、という決定と同じ意味なのです。これは同時に、確定判決といえども従わない、ということを意味しており、恐るべき憲法違反であることは自明ではありませんか。
さらに農水省の本来の役割から考えても、何故政府は開門するかしないか、二者択一の判断しかできないように議論するのでしょうか。農水省の使命は、漁業も農業もいずれもが成り立つように仕事をすることです。決してそのいずれかを選択することではありません。
私は解決のみちすじは明確だと思います。まず、漁民が漁業被害に苦しんでいる、その被害の解決のために開門を判決が命じたとおり行うことです。しかし、何の対策なしに開門すれば、農民、市民が被害を受けるというのであれば、その被害防止対策を政府がきちんと実行することです。政府の一方的な案では被害を受ける立場の方たちが納得できないのであれば、その方たちの意見をきちんと聞いて、よく協議したうえで対策工事の内容を決定し、実行するのです。そうすれば開門によって農民、市民のみなさんに被害が出ることもなく、まさに漁業と農業及び市民生活の両立が可能となるのです。政府はこのように自明と思われる判断をあえて否定し、あえて漁業被害を続ける態度を変えようとはしません。この政府の態度が国民の立場から決して許されるものではないことは明らかです。国は最高裁の判決を求めるのではなく、関係当事者の協議による解決の努力を尽くすべきだ、という意見が多くの新聞の社説論説で表明され、国民の支持を広げています。
このような状況の下で、御庁裁判所に求められる本件審理のあり方はどうあるべきなのでしょうか。
本件の漁民被害者である平方さんは、今の意見陳述で「開門は多くの国民の願いでもあります。この争いを早く終わらせ、有明海、そして有明海域の漁民の生活を再生するために、裁判所が国を厳しく断罪してくれることを期待しています」と述べました。私もそのとおりだと考えます。この問題の解決は、繰り返しですが、政府が断固として開門を実行するという立場に立つこと以外はあり得ません。政府がその決意を固め、開門による被害防止の工事を行えば、全てが解決できるのです。従って御庁がそのことを実現しようとするために果たすべき役割は、政府に開門の決断をするよう厳しく求めること以外にはありません。そのためには、政府がこの訴訟で主張している「二つの義務が衝突している」「開門しようと努力したが地元開門反対にあい実行できない」などという国民をだまし誤解をさせる主張に対し、すみやかに原審どおり厳しくその誤りを指摘しただして、開門以外道はないことを示して、国民に広く明らかにすることです。
原審判決が厳しく判断しているとおり、国の主張は確定判決で審理された内容をむしかえし、確定判決の誤った理解に基づく不当な主張を行っているに過ぎません。もはやこれ以上に国が申請している証人調べなどが、まったく必要ないことは明らかです。是非直ちに結審し、厳しく国を断罪した判決をすみやかに下されるよう切望したします。もちろん私たちは、いたずらに判決を求めるものではありません。話合いによる解決ができるのであれば、それが最も良いことであり、私たちは裁判所のご努力によってその場が設けられるのであれば、その実現のために喜んで力を尽くしたいと希望しております。しかし、その実現のためには、国に開門の決意を固めてもらうことがその前提となるのであり、その決意のためには、まずはただちに結審し、判決期日を予定することが必要だと考えています。そして予定された判決期日までの間に、話合いの設定の努力を尽くすことによって、国の決意を促すことができるのではないかと考えています。
ぜひ、御庁が本件の本質的な解決のために適切な訴訟審理をしていただくことを切望します。