福岡県内の多くの公立中学校に、眉毛を整えてはならないという校則があります。これって、全国的に見ると異常なことのようです。

福岡市立中学校校長会提言「より良い校則をめざして」を受け、今年4月、福岡市内の中学校で校則が見直されました。しかし、眉毛に関する校則は多くの学校で残ったままとなっています。

眉間の産毛を剃ってきた生徒に対し、教師が毎朝油性マジックで眉毛を描きいれるといった「指導」がなされる学校もあります。

眉周りの産毛を整えただけで教室に入れてもらえず別室登校を強いられるケースもあります。

私は、教師がなぜそこまで眉毛にこだわるのか理解できません。たかが眉毛で教室に入れさせないというのは、生徒の「教育を受ける権利」(憲法26条)を侵害しているとしか思えません。

私は、先日、眉毛を理由に生徒に別室登校を強いる学校に対して、処分の撤回と理不尽な指導をやめることを求めました。

1 別室登校処分は生徒の人権を大きく制約していること

2022年4月の始業式の日、教員が、眉間及び眉下の産毛の手入れをした生徒に校則違反であるとの指導を行い、その生徒は、教室に入れてもらえず、別室にて一人だけ自習をするいわゆる別室登校処分を受けることとなりました。この別室登校は週が明けても続きました。

別室登校処分は、他の生徒と共に授業に参加する機会自体を奪うという点で、生徒の教育を受ける権利(憲法26条1項)を大きく制約するものです。

2 校則及び生徒指導が合理的だとして許されるための要件

教育を受ける権利を制約することが許されるのか、文科省事務連絡、福岡市立中学校校長会提言、福岡県弁護士会意見書を参照して検討します。

(1)文科省事務連絡

文部科学省令和3年6月8日付事務連絡「校則の見直し等に関する取組事例」で確認されているように、そもそも校則には明確な法的根拠はなく、学校が教育目的を達成するために必要かつ合理的な範囲内において定めることが許されたものにすぎません。

それゆえ、校則による生徒の自由(人権)に対する規制が許されるためには、その規制に真に必要かつ重要な教育目的があること、及び、規制の態様・程度がその目的と実質的に合理的な関連性を有する必要があります。

校則の内容が社会通念に照らして合理的とみられる範囲内でなければならないことはいわば当然のことです。

また、この事務連絡では、教員がいたずらに規則にとらわれて、規則を守らせることのみの指導になっていないか注意を払う必要があるという当たり前のこともあらためて確認されています。

さらに、校則違反の生徒に対して懲戒等の措置をとる際には当該措置が単なる制裁的処分にとどまることなく、教育的効果を持つものとなるよう配慮しなければならないのは当然のことです。

(2)福岡市立中学校校長会「より良い校則をめざして」

福岡市では、福岡県弁護士会の意見及び文科省事務連絡を受けて、2021年6月、弁護士などを委員とした校則見直し検討協議会を設置。同協議会の提言を受けて、同年7月、福岡市立中学校校長会は「よりよい校則を目指して(提案)」を発表しました。

この提案を受けて、福岡市内のすべての公立中学校で校則の見直しが行われました。

この提案は、生徒の人権を尊重した、よりよい校則への見直しを提示したいと提案に至る経緯を述べ、校則は生徒のためのものであり生徒を管理するためのものではないことが確認されました。

また、校則を通して自分でよりよいものを選択する力、一人ひとりの人権・多様性を尊重する態度を養うことを目指し、教師主導の生活点検については生徒の人権に配慮したものとなっていたか見直すことが求められているところです。

この提案は、すべての公立中学校の教員に求められている当然の内容を確認したものです。

(3)福岡県弁護士会意見書

福岡県弁護士会は、福岡市内の公立中学校の校則を調査した上で、2021年2月、文科省、福岡県・福岡市・北九州市教育委員会に対して、合理的理由が説明できない校則や生徒指導、子どもの人権を侵害する校則や生徒指導は、直ちに廃止し、もしくは見直すことを求める意見書を提出しました。

弁護士会が同意見を提出したのは、校則を検討するにあたっては、①規制に真に必要かつ重要な学校教育上の目的が認められること ②規制目的と規制手段(態様・程度)が実質的に合理的関連性を有することの2つの要件を満たしていることが必要であり、いずれかの要件を満たさない場合には当該校則については廃止や見直しが必要となるところ、校則には生徒の学校生活を必要以上に制限するものが多数存在しそのいずれにも真に必要かつ重要な学校教育目的上の目的を認めることができず、規制するだけの合理的理由を見出すことができず、校則の指導の中には、生徒の人権を侵害するような指導方法も認められるため、直ちに見直しの必要があるからです。

現在の校則は、単に教員側から生徒を縛るものになってしまっており、生徒の権利や人権を守るという役割がほとんど果たされていないものとなってしまっており、中学校の校則について早急に見直すことを求めたものです。

3 眉毛校則・別室登校の不合理性

そもそも眉毛に手を加えることを禁止することにどのような教育目的があるのか不明であると言わざるを得ません。また、仮に何らかの教育目的があったとしても、眉毛の形状にコンプレックスのある生徒もいることも容易に想像できることから、眉毛に手を加えることを一律に禁止することは過度な制限であると言わざるを得ず、規制目的と規制手段との間に実質的合理的関連性も認められません。

この点、福岡市教育委員会が今年3月に公表した福岡市内の某中学校のいじめ事案に関する調査報告書において、生徒が眉毛をいじったことを理由に、顧問の教師が個別指導をし、練習に参加させず部室の掃除等をさせた事案について、眉毛をいじることを一律に禁止して指導対象とする校則はそれ自体合理性に疑問があると認定しています。また、指導については他の部員に見える形でペナルティを与えている点(それによって申立人に羞恥心という心理的負担を与えている点)において、適切性を欠くものであったと認定しています。同調査報告書では、教師が生徒に強いる連帯責任について、当該指導は過度に連帯責任を追求するものと受け止められるものでいじめにつながった可能性も否定できないとしています。

今回、生徒に対して行われた、眉毛を理由とした個別指導は、そもそも眉毛をいじることを禁止した校則自体の合理性に疑問がある上に、その校則に違反したことでその生徒だけ教室に入れてもらえず別室にて自習を強いられるという他の生徒に見える形でのペナルティを与えるものであって適切性に欠けるものと言わざるを得ないものです。また、学校において、生徒に対して指導をする際に多用される「連帯責任」については、いじめにつながるような原因を学校や教師が作り出していると言わざるを得ず、安易に生徒指導として用いるべきではありません。

4 まとめ

眉毛を理由とする別室登校処分は、規制に真に必要かつ重要な学校教育上の目的が認められず、規制目的と規制手段が実質的に合理的関連性を有しておらず、当該生徒に対する重大な人権侵害であると言わざるを得ないものです。