1 義務教育は大人の義務

中学校入学式で私はPTA会長としてこんな挨拶しました。

「新入生の皆さん、はじめて制服を着た感じはいかがですか。憧れていた制服を着てワクワクする気持ちでしょうか。中には着慣れない服を着て窮屈に感じている方もいるかもしれませんね。どうしても自分には似合わないと感じる方もいるかもしれません。これから皆さん達は、様々な疑問や、矛盾を感じる場面にぶつかっていくでしょう。そういう時は、なぜ違和感を覚えるのか、なぜおかしいと感じたのか、その理由を自分の頭で考えることが大切です。そしてどうすれば良いのかを周りの大人と一緒に考えましょう」

「皆さん達が安心して勉強できる環境を作るのが私たち大人の使命です。もし、皆さんの疑問に対して『中学生のくせに生意気だ』などと言う大人がいたら、それは大人の方が間違っています。皆さんには、ぜひ生意気な中学生になってもらいたいと思います」

「警固中学校校歌の中に『絵巻は展く平和台』とあります。平和台というのは警固中学校のすぐ隣にある舞鶴公園の別名ですね。でも71年前まで平和台という地名はありませんでした。かつてこの一帯には日本軍の軍事施設がありました。戦争で福岡市は焼け野原になり、もう二度と戦争はしない、子ども達に平和な未来を残したいとの強い思いで、この場所を『Peace-Hill』すなわち『平和台』と名付けました。その願いの通り、私たちは70年間、戦争の恐怖に怯えることなく平和の中で暮らすことができました。そして今、私たち大人は、皆さんにも飢えや戦争の不安がない社会を引き継いでいきたいと強く思っています。皆さんの平和な暮らしを脅やかすものがあれば、私たちは全力でそれを排除します」

「保護者の皆さん、9年間の義務教育の後半3年間に入りました。義務教育という時、子どもが学校に行く義務だと勘違いをしている方もいるかもしれません。義務教育というのは子どもの義務ではなく大人の義務のことです。子どもにあるのは義務ではなく『教育を受ける権利』です。子どもが安心して教育を受けることができるように環境を整えること、子どもの成長を阻害することに対しては全力で立ち向かっていくことが私たち大人の義務です」

でも、後に、私は、この挨拶が間違いだったことに気づきます。すなわち「皆さん達は、様々な疑問や、矛盾を感じる場面にぶつかっていくでしょう。そういう時は、なぜ違和感を覚えるのか、なぜおかしいと感じたのか、その理由を自分の頭で考えることが大切です。そしてどうすれば良いのかを周りの大人と一緒に考えましょう」と生徒に呼びかけていますが、理不尽な校則や学生服を強いてきたのは教師であり、私達保護者もそれを容認してきたのです。理不尽であること、人権侵害であること、そして、今この瞬間にも苦しんでいる生徒がいることを知っていながら私達大人は生徒から声があがるまで何もしないのでしょうか。子ども達が安心して教育を受けることができるよう環境を整えることが私達大人の義務です。だったら、子ども達から声があがるのを待つのではなく、私達大人が率先して学校の理不尽に声を上げるべきだと考えます。

2 体育祭の練習の中で気になる「連帯責任」

「連帯責任」って学校では多用されるものの、学校以外の社会ではほとんど耳にすることがない言葉です。

学校では、ある生徒が忘れ物をしたりすると、その生徒が所属する班やブロックにペナルティが課されます。体育祭の時期だと、そのペナルティが点数化されて、それぞれのブロックの点数から引かれます。つまり、体育祭開始時に、0点からスタートするのではなく、赤組がマイナス48点、白組マイナス30点といった具合にマイナスからスタートする運用がされているのです。

分断と憎しみしか生まないようなこんなサディスティックなシステムを良く考えつくなと呆れてしまいます。

なお「連帯責任」という考えは、日本国憲法の個人責任の原則や適正手続の観点からは原則的に否定されており、ごくごく例外的な場合(共同不法行為、連帯債務、選挙における連座制など)しか認められないものです。学校のように無限定に「連帯責任」を適用することは許されないことです。戦争を遂行する原動力となった隣組制度が形を変えて学校の中に残ってしまったのでしょうか。

福岡市教育委員会いじめ防止対策委員会は「調査報告書」(2022年3月)で、教師が生徒に強いる連帯責任について「当該指導は過度に連帯責任を部員らに追求するものと受け止められるもので」「いじめにつながった可能性も否定できない」と厳しく指摘しています。

教師が無意識に「連帯責任」という言葉を使っているとしたら、かなり危険なことだと思います。

私は、PTA会長として体育祭でこんな緩い挨拶をしました。

「テレビを見れば『サムライ・ジャパン』『日の丸を背負って』などといった勇ましい言葉があふれています。部活でも、警固中の名誉のためだとか、先輩が築いて来た伝統を汚さないためとか重い重い荷物を背負っている方がいるかもしれません。でも、君たちはそんなもの背負わなくていいんです。スポーツは、楽しいからするんです。国や学校の名誉のためにするんじゃありません。楽しんでいきましょう」

体育の授業や部活動のせいでスポーツが嫌になってしまう生徒が多いのは悲しいことです。スポーツって本当は楽しいものです。努力とか根性ばかりじゃ苦しくなります。

3 生きててくれてありがとう

私は、PTA会長として、中学校卒業式でこんな挨拶をしました。

「高校入試が終わったばかりの皆さんたちに、周りの大人達は、高校ではもっと努力が必要だとか、社会はそんなに甘くないぞ、厳しいんだぞと、心配をしてくれます。でも、そんなに緊張しないでください。皆さんの前に広がる未来は、辛く険しいものではなく、明るくて楽しく、今よりももっと自由で、もっともっと喜びと感謝に満ちた世界です。私達の少年時代とは比べようもない程大きな世界が皆さんを待っています。皆さんは気軽にソウルや北京に行くことでしょう。平壌にも行っているかもしれません。ニューヨークやロンドンにもヒョイと足を伸ばすでしょう。海外の友達もたくさん増えるでしょう。皆さんは、世界に羽ばたく大きな翼を持っています」

「皆さんの姿を見て『最近の若者はなってない』と小言を言う大人もいるかもしれません。でも、そんなこと気にせずに自由にやってください。だって『最近の若者は』という言葉は数千年前の遺跡からも出てきているのです。人類の文明は『最近の若者』によって確実に進歩・発展しているのです。自信を持って世界に羽ばたいてください」

「皆さんは、卒業を迎えて、お母さん、お父さん、育ててくれた大人に感謝をしているでしょう。でも、あなたが生まれ、そして、中学校を卒業するまでに成長してくれたこと、何よりあなたがいることでどれだけ多くの人を幸せにしてきたでしょう。感謝を述べるのは私達の方です。今日この場に来ることができなかった方も含めて卒業生全員に感謝申し上げます。生きててくれてありがとう。あなたがいることで私達の人生はとても豊かで、幸せなものになりました。ありがとうございます」

後藤富和(弁護士・福岡市立警固中学校父母教師会元会長)