2017年4月、福岡市立警固中学校のPTA会長となり驚いた。

 同じ服、同じ髪型、同じ行動、大量生産のロボットのよう。黙々掃除、無言給食、男子は前・女子は後、ツーブロック・ポニーテール禁止、眉毛を整えてはならない、靴下も靴も下着も白。学校以外の場所では耳にすることがない教師の罵声。

 こんなストレスフルな環境に子ども達はさらされている。

 6月、セーラー服の着用を強いられた中学時代を「地獄だった」と訴える高校生の話を聴いた。数日後、制服のせいで辛い思いをしている生徒がいることを校長に相談した。校長はあっさりと「じゃあ、制服変えれば」と答えた。ここから、校長とPTA会長の二人三脚の改革が始まった。

 当初、通学服の完全自由化(文字通りの標準服化)を考えたが、実現までかなりの年数がかかる懸念があり、今苦しんでいる生徒に間に合わない。そこで、暫定的な措置として性差を設けないジェンダーフリー標準服導入を目指した。

 問題意識を共有する保護者、教師、LGBTアライ、市議会議員、弁護士、新聞記者などで福岡市の制服を考える会を結成し、情報収集と各所に対する働きかけを行った。

 福岡市全体でジェンダーフリー標準服の導入を目指すも壁は厚く、警固中一校だけでも導入を目指すことにした。

 まずは、PTAで、LGBTQ +の当事者や保護者、支援者を招いて徹底的に学習をした。そこに、地域の方や議員にも参加してもらった。

 PTA主導で学生服改革を進める中で、PTAの民主化・適正化も同時並行で行った。PTAが非民主的な組織のままでは、子ども達の自由を確保することはできないからだ。

 学校の下請機関のようだったPTAを、人権や憲法を主体的に学び、生徒達の人権を確保するために行動するPTAへと変えていった。もちろん、PTAへの入退会は自由だし、実行委員形式として保護者が伸び伸びと活動できるようにした。すると、従前よりも活動が活発化し、人権研修を毎月のように行い、そこで学んだ課題をPTA広報誌で保護者、地域の方や議員達にも知らせた。

 弁護士を講師に招き、憲法、人権、プライバシー権について学び、保護者と学校とでディスカッションを繰り返す中で、それまで学生服の胸に縫い付けられていた名札を取り外しできるようにした。

 また、生徒達のカバンが10〜15kgになっていることを実証し、成長期の子どもの骨格や姿勢に与える影響なども調べ、不要な教科書を教室に置いて帰る「置き勉」を認めさせ、体に負担の少ないタイプのカバンを導入した。

 ジェンダーフリー標準服の導入に向けて、警固中学校では標準服検討委員会を立ち上げた。生徒代表も委員として入った。ただ、ここで感じたのは、生徒達が自分達の本音を語ることができなくなっているということ。意見を求めても、生徒達は先生が要求している答えを予想してそれを自分の意見として言う癖が染み付いている。それは、これまでの学校生活の中で「何でも言ってみろ」と言われて、自分の本音を言ったところ「ふざけるな」と教師から一喝された経験があるから。それを経験した生徒は二度と本音を言わなくなる。

 生徒が自由に発言できる環境、つまり生徒の表現の自由を大事にしてきたか、その取り組みが大人達に問われている。

 性的マイノリティへの配慮だけでなく、外国ルーツの子ども達や、文化の違い、感覚過敏への対応など少数派の人権に配慮した標準服を生徒とともに作り上げていった。

 ジェンダーフリー標準服導入に先立ち、入学予定の小学6年生と保護者に説明を行った。校長は子ども達に向けて「あなた達が活動しやすいと思う服を、あなた達が選んで良いんですからね」と呼びかけた。子ども達からは歓声が起こった。しかし、その直後、生徒指導の教師が「男子は選べんからな」と一喝した。予定にない行動だった。この教師は一体何を学んできたのか、私は怒りに震えた。

 2019年4月、大人達の心配をよそに、自分の意思で、スカート・ズボン、リボン・ネクタイ、シャツの色などを選んだカラフルな子ども達が入学した。

 その1年後、福岡市と北九州市のすべての公立中学校でジェンダーフリー標準服が導入され、県内各地でジェンダーフリー化が進んでいる。

 しかし、その考えに追いついていないのが現場の教師である。標準服をジェンダーフリーにしたのに、髪型や整列など性別による不必要な区別が続いている。

 また、下着の色検査のせいで学校に通うことができなくなった生徒や、眉間の産毛を剃ったら毎朝職員室で油性マジックで眉毛を描かれるという人権侵害が横行していることが浮かび上がった。

 そこで、2020年、福岡県弁護士会では校則プロジェクトチームを結成し、福岡市内すべての公立中学校の校則を分析した。

 2021年2月、福岡県弁護士は「中学校校則の見直しを求める意見書」を発表。この意見を受け、福岡市教育委員会は、同年6月、弁護士やLGBTアライを委員とした校則見直検討協議会を立ち上げ、同年7月、福岡市立中学校校長会はガイドライン「よりよい校則を目指して」を策定した。そこでは、校則が「生徒を管理するものではない」ことが確認され、校則を通じて「自分でよりよいものを選択する力」「一人ひとりの人権・多様性を尊重する態度」を養うこととした。そのために、生徒を交えた校則検討委員会の立ち上げや校則のホームページ公開などが求められた。

 2022年4月、福岡市内の各中学校で校則の見直しがされたが、生徒と話し合い生徒の個性を尊重する方向で見直した学校もあれば、形だけの見直しに終わった残念な学校も多い。

 校則問題は、人権問題の核心であり、参政権、平和にもつながる。

 理不尽な校則であっても文句を言わずに黙って従うことを学ぶと、理不尽な働き方を強いられても我慢して働き続け過労死につながり、どうせ言ったって変わらないとの諦めは投票率の低下、そして、自分の命やわが子の命すら国に差し出す従順な国民を作り出すことになる。

 校則の問題は平和の問題に直結する。

 声を上げよう。それが不断の努力である。