1 当職らの姿勢

 当該生徒と貴校との間のトラブルについて、当職らは当該生徒の代理人という立場ではありますが、当該生徒側の要求だけを一方的に貴校につきつけるのではなく、どうしたら当該生徒が貴校において円滑に学習ができるのかを貴校と話し合い、調整し、当該生徒および貴校の他の生徒にとってもよりよい学習環境を整えることができればと考えています。

 そのために、対立関係ではなく、貴校と当職らとで協力して、当該生徒の学習環境の構築に向け知恵を出し合いたいと考えこれまで活動してきました。

 あらためて言うまでもありませんが、子どもには、教育を受ける権利(憲法26条1項)が保障されています。そして、子どもの教育を受ける権利を実質的に保障するために保護者や行政(学校)には、子どもの学習環境を整える義務があります(憲法26条2項。保護者の中には「義務教育」を子どもが学校に通わなければならない義務と勘違いをしている方も多いようですが、言うまでもなく、子どもにあるのは教育を受ける「権利」であり、教育について「義務」を負っているのは行政や保護者の方です)。

 弁護士は、人権の擁護と社会正義の実現を使命としており(弁護士法1条)、その使命からも、当職らは、当該生徒が貴校において教育を受ける権利を充足できるよう貴校と協力して環境を整えて行きたいと考えています。

 当該生徒が貴校で過ごすのもあと◯年◯か月となりました。当該生徒においては具体的に進学する高校も明確化し夢に向かって歩んでいく決意でいます。

 貴校で過ごす◯年◯か月、当該生徒の夢の実現にむかって、当職らも、貴校の職員の皆様とともに当該生徒をサポートしていく所存です。

2 当該生徒と保護者の不信感

 当該生徒と貴校とのトラブルが深刻化した背景には、当該生徒と保護者の貴校に対する不信感があります。

 当該生徒らが貴校に抱く不信感は、貴校の生徒に対する指導およびその指導のもととなっている校則に起因します。

 もちろん、校則や生徒指導は当該生徒だけに向けられたものではなく、貴校の生徒全員に等しく向けられたものではあります。

 校則をすべての生徒に等しく適用し、すべての生徒に対して同じように指導をするというのは、組織の中での不公平感をなくすという意味では、決して間違ったことではないと思います。

 しかし、生徒一人ひとりに違った個性がある中で、ある生徒にとって、校則を不合理であると感じたり、不合理な校則を適用されることについて強いストレスや抵抗を覚えることもあります。

 当職らとしては、一人ひとりの個性の尊重が求められる時代に、少数の生徒に我慢やストレスを与えてまでも全生徒の画一性を追求することに教育的意義があるとは感じておりません。

 おそらく、当該生徒および保護者の貴校に対する不信感の根底には、当該生徒において納得できていない校則を一方的に強いられたり、校則違反について指導を受けることについて、過度のストレスを覚え、それが貴校に対する不信感となって、あえて校則違反の髪型等をしてくるという反発となって現れているように感じます。

 このような不信感が根底にある以上、当該生徒のいわば示威的な校則違反行動に対して、校則違反に対する杓子定規な対応をしたところで、かえって不信感を大きくするだけで、さらなる反発を招く結果となることが予想されます。おそらく、これまでがそうだったのではないかと思います。

3 当該生徒が充実した中学校生活をおくるために

 当該生徒に対して、必要なことは、校則違反についての杓子定規な対応ではなく、当該生徒がなぜ校則に対して不合理に感じているのか、その声に真摯に耳を傾け、校則や生徒指導に対する生徒の不合理感やストレスを軽減するために学校として何ができるのかを一緒に考えていく姿勢だと思います。

 この点、他の生徒との関係で示しがつかないといったことや、他校との足並みを揃える必要があるといった回答は何の意味もないばかりか、かえって不信感を強くさせるものです。他校との足並み云々というのは、その言葉を聞いた生徒からすると、先生たちは生徒には、自分の頭で考えろ、他の人がやらなくても自分から率先してやれと指導するのに、先生たちは自分の頭で考えることもしないし、人がやらないと自分からはやろうとしないという先生に対する不信感を植え付ける結果にしかならないものです。

 たとえ、他校では取り組みがはじまっていなくとも、我が校では生徒達のことを考え、率先して、生徒の声に耳を傾け、校則の見直しをはじめるといった姿勢を示すことが不信感解消の第一歩ではないかと思います。

 当職らとしては、当該生徒が在学中に貴校において校則の抜本的な見直しがなされることまでは期待していません。ただ、今のままの校則や生活指導でよいのかといった疑問を貴校の職員の中でも共有していただき、当該生徒をはじめ校則について疑問を持っている生徒の意見を聞いてみようといった姿勢を示すことが大事なのではないかと考えています。当職らも、そのためのお手伝いをさせていただくつもりです。

 当該生徒や保護者の言動には多少行き過ぎた面もあったかと存じます。この点は当該生徒らにおいても反省すべき点は多々あるものと思われます。

 ただ、前記の通り、当該生徒らの行き過ぎた言動には貴校に対する不信感と、それを上書きするような生徒指導が繰り返されることで、さらなる不信感を生んでいることが背景にあり、現状は、当該生徒にとっても貴校にとっても悪い方向に進んでいるように当職らには見えます。

 当該生徒と貴校との関係を改善・再構築し、当該生徒が残りの在学期間、充実した中学校生活を送ることができるよう、私たちに何ができるのかを一緒に考えていきたいと思っています。

 参考として、当職らや福岡県弁護士会が制服や校則に関してどのような取り組みをし、現在どの程度の到達点にあるのか報告した書面を参考資料とともにお送りします。貴校の職員の皆様で共有いただければと存じます。