岩手県北上市の公立小学校の保護者がPTA非加入を理由にPTA会長や校長から差別的取扱いを受けていることについて、今月はじめに意見書を送ったものの、その後も是正されないため、本日、2つ目の文書を送付しました。

2022年(令和4年)5月17日

PTA非加入保護者に対する差別的取扱の是正を求める要望書

 弁護士 後藤富和

 1 当職は、貴校及び貴校PTAに対して、本年5月6日付「PTA加入に関する意見書」を送付し、PTA非加入を理由に非加入保護者やその児童に対する不利益や差別を助長するような言動を控えるよう求めました。念のため、上記意見書を末尾に添付します。

2 貴校は、同月13日付「運動会に関わるお知らせ」を校長名で発行し全保護者に配布しました。

 同文書によれば、運動会参観の際の駐車について「駐車券を19日(木)にPTA会員(兄弟姉妹がいる場合には下の学年の児童)に配布します」とあり、この駐車券を持ったPTA会員は、貴校駐車場や中学校体育館駐車場、地区交流センター駐車場に自車を駐車することができることとなります。

 ただ、この文書を素直に解釈すると、PTA会員には駐車券を配布するものの、非会員には駐車券を配布せず貴校駐車場等への駐車を認めないという風に読めます。

3 公立学校の施設について、特定の保護者のみに使用を許し、他の保護者には使用をさせないといった差別的な取扱をすることは、公共施設の性質に反するものとして許されないものです。

 本年5月6日付意見書でも申しましたが、PTA非加入を理由に当該保護者や児童に対して、不利益や差別を助長するような言動を続けることは厳にお慎みください。不利益をちらつかせてPTA加入を強制することは、かえって保護者の反発を招く結果となってしまいます。むしろ、任意加入を徹底しても、なお加入してもらえるような魅力的なPTA活動を模索することこそ貴殿らに求められていることだと考えます。

4 そこで、貴校に対して、以下の要望をいたします。

1 「駐車券を19日(木)にPTA会員(兄弟姉妹がいる場合には下の学年の児童)に配布します」とした令和4年5月13日付文書を撤回してください。

2 PTA会員であるか否かにかかわらずすべての保護者に駐車券を発行する旨を記載した文書を全保護者に配布してください。

3 PTA非加入を理由に当該保護者や児童に対する不利益や差別を助長する言動をただちにやめてください。

以上

(添付資料)

2022年(令和4年)5月6日

PTA加入に関する意見書

 弁護士 後藤富和

 1 私達には、ある組織に所属したり所属しないことを自分の意思で決める「結社の自由」が憲法上保障されています(憲法21条1項)。

 結社の自由が、憲法上重要な人権として保障されている以上、弁護士会など憲法や法令で加入が要請されている特別な場合を除いて、あらゆる組織は任意加入を前提としており、組織への加入を強制することは人権侵害として許されません。

 PTAも当然のことながら任意加入団体であり、学校に子どもを通わせる保護者が当然に加入しなければならないものではありません。

 PTA会長以下役員は、このことを当然に認識し理解していることかと存じます。おそらく、貴校PTAが所属する自治体のPTA連合会においても、PTA任意加入に関するガイドラインが作成され、研修などによって各校PTA役員らに周知徹底されていることかと存じます。

 それにも関わらず、未だに任意加入団体であることや、必ずしも加入する必要はないことなどの説明すらせぬまま、入学した生徒の保護者を自動的に加入させるPTAが存在します。

このようなやり方は明白な人権侵害であるばかりか、「知らなかった」では済まされない悪質な行為であり、PTA会長の法的責任が問われてもおかしくない事態といえます。

 そもそも、人権を擁護すべきPTAが率先して保護者の人権を侵害しているという認識をPTA会長以下役員の皆様にお持ちいただければと存じます。

2 貴校PTAにおいては、保護者説明会などで任意加入の説明がなされることもなく、また、入会届や非加入の届出用紙を配布したり、非加入の手続きについての説明もなされないまま、入学式を迎え、保護者の加入意思を確認することもなくPTA役員決めが行われました。

 このような貴校PTAの運営方針に疑問を持ち、貴校に子どもを入学させる予定の保護者(以下「当該保護者」という。)は、本年2月に貴校PTA会長及び校長に宛ててPTA非加入届を提出しました。

 しかるに、当該保護者からのPTA非加入届を受領した後に、貴校PTA会長や校長らから、当該保護者に対して手紙や電話による執拗な連絡が続きました。

 この連絡の中で、貴校職員から当該保護者に対し、当該保護者が提出したPTA非加入届の取扱について「受理されておらず保留になっている状態である」との説明がなされました。

 そもそも、前述したように、PTAに加入するか否かは保護者の自由な意思によるものであり、PTAや学校の了承が必要なものではありません。

 当該保護者がPTA非加入届を提出したにも関わらず、非加入として取り扱わず保留とする、つまり非加入についてPTAの了承が必要とすることは、実質的に加入を強制するものであり、明白な人権侵害であると言わざるを得ません。

3 また、貴殿らは、当該保護者に対して、PTA会費が、入学時や運動会、卒業式等の際に児童に配るノートや卒業証書入れとして還元していると説明した上で、「PTA会費を納入されないと言うことは、(当該保護者の)お子様の分を他の会員の会費から負担することとなりますが、そのことについてどのようにお考えになられますか」と問いかけておられます。

 もし、貴殿らが上記問いかけに何らの疑問を感じずに非加入保護者にこのような問いかけをしたとすれば、貴殿らの人権意識の欠如が甚だしいと言わざるを得ません。

 ノートや卒業式の記念品などをPTA非加入家庭の児童にだけは配らないということは児童の間に分断を生むものであり児童の健全育成を目的とするPTAとして絶対にやってはならないことです。ましてや、「お子様の分を他の会員の会費から負担することとなりますが、そのことについてどのようにお考えになられますか」と非加入の保護者に問いかけることは、不利益を摘示することで半ば加入を強制するものであり不適切な言動だと言わざるを得ません。これらはPTAとしてやってはいけないことの典型例としてガイドラインや研修などで繰り返し指摘されてきたはずです。

 そもそも、加入者の児童と非加入者の児童との間に分断や差別が生むような事業をPTAが行うべきではありません。ましてや分断や差別を生みかねない事業の実施について非加入の保護者が責任を感じなければならないような問いかけをすべきではなく、その問題はPTAにおいて考えるべきことです。私もPTA会長をしていましたが、その間、非加入の保護者も当然ながらいました。だからといって、非加入の保護者や生徒に不利益を課したり、非加入者から実費を徴収しようといった発想すら思い浮かびませんでした。

 その上、貴殿らは当該保護者に対して、「(児童に対する記念品贈呈などについて)差別や教育的配慮のため、こちらはその都度、実費をいただきたいと思います。また、それらが必要ないのであれば実費は結構です」と説明されていますが、貴殿らのこのような姿勢こそ、保護者間、児童間に差別と分断を生むものであって、不適切の謗りを免れないものでしょう。前記の通り、児童の間に差別や分断を生みかねないような事業をPTAが実施すべきではありません。貴殿らは予算の問題をあげますが、それは学校予算が不十分であることを意味し、PTA連合会や市議会、県議会を通じて、十分な学校予算を確保するよう働きかけをすることこそ、貴殿らに求められている行動です。それを、非加入の保護者の責任に転嫁すべきではありません。

4 貴殿らは、「非加入の際は6年間登校時のバス乗車までの付添をお願いいたします」と、非加入家庭の児童は登校班に入れてもらえないということを指摘しています。

 これも、不利益を摘示し実質的に加入を強制するものであり不適切な言動と言わざるを得ません。場合によっては脅迫罪など刑事責任を問われかねないほど悪質です。厳にお慎みください。

5 貴殿らは、当該保護者に対して、PTA非加入の場合に生じる不利益について同意書への署名を求めておられます。しかも、その同意書については、小学校、PTA会長、地区委員長の同意を得るとしておられます。

 このような同意書を求めること、さらにはその同意に貴殿らの同意を必要とすること自体、実質的に加入を強制するものであり、任意加入の原則に反するものであると言わざるを得ません。

 また、当該保護者がPTAに非加入であるとことや、当該保護者の氏名や住所等の個人情報を第三者と共有することは、個人情報保護法で禁止されている目的外利用、不適切な利用、第三者提供にあたるおそれがあり、民事責任はおろか刑事責任を追求される可能性のある行為です。

6 当該保護者は、書面によってPTA非加入の意思を明確にしているのですから、貴殿らによるこれ以上の干渉はおやめください。

 また、非加入を理由に当該保護者や児童に対して、不利益や差別を助長するような言動を続けることは厳にお慎みください。

 不利益をちらつかせて加入を強制することは、かえって保護者の反発を招く結果となってしまいます。むしろ、任意加入を徹底しても、なお加入してもらえるような魅力的なPTA活動を模索することこそ貴殿らに求められていることだと考えます。

 これを機会に、貴校PTAがより魅力的な組織となることを願ってやみません。

以上