【九州弁護士会連合会】川内原子力発電所1号機の運転停止を求める理事長声明

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 2015(平成27)年8月11日、九州電力株式会社(以下「九州電力」という)は、川内原子力発電所(以下「川内原発」という)1号機を再起動させ、運転を開始した。
2011(平成23)年3月11日に発生した東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所の事故は、原子力発電所における過酷事故が起こり得るものであって、しかも被害が極めて甚大で重大な人権侵害であることを示した。
しかし、事故から4年以上が経過した現時点においてもその原因は依然として不明なままであって、事故後策定された「新規制基準」が事故原因を適切に踏まえたものであるとはいえない。とりわけ地震動の策定基準の甘さや周辺カルデラ火山の火砕流問題に基づく立地の不適さなど、川内原発特有の問題点についても、有効な対策はなされていない。
また、仮に現在の「新規制基準」の下で原子力発電所の再稼働を検討するとすれば、少なくとも、過酷事故が発生し得ることを前提として、周辺住民を確実に、安全に避難させるための「実効性のある避難計画」が必須であるところ、現状の鹿児島県の「避難計画」はまったく不十分と言わざるを得ない。すなわち、避難計画は原則として川内原発から30キロ圏内についてのみのものであり、その基本は30キロ圏外に出ればよいというものであって、しかもその経路や避難先については固定のもので、風向きなどを考慮されていない。また、原発から5キロ圏内の住民が避難した後にその周囲の住民が避難するという二段階避難の現実的可能性は極めて疑問であり、避難元と避難先の自治体間の実効的な連携もとられておらず、極めて杜撰なものである。
これらの観点から、当連合会は、2014(平成26)年10月31日開催の当連合会定期大会において、「実効性のある避難計画」が策定されることなく原子力発電所を運転することに反対し、九州電力に対し、かかる計画が策定されない限り、原発の運転をしないこと、国に対し、かかる計画が策定されるまで既設原発の設置変更許可の適合性審査を停止することを求める決議をした。
その後、鹿児島県が、モニタリングポストの情報等を基にして、事故時の風向きや放射線量から適切な避難経路を割り出すための「原子力防災・避難施設等調整システム」を導入したが、風向きの入力で避難先施設の候補がリスト化される程度のものにすぎず、リストアップされた施設の収容人数や、汚染状況は1件1件、現地とやりとりするしかなく、どのようにして迅速に何千にも及ぶ自治会ごと医療・社会福祉施設ごとの避難に対して指示を出すのか、変更後の避難経路上に二次災害があった場合にどうするのかなど、次の段階で必要不可欠となる対応策はなく、その実効性は極めて疑問である。
鹿児島県は川内原発の重大事故に備え、周辺住民の避難に使うバスの運行について、県バス協会、バス運行会社との間で、2015(平成27)年6月26日に協力協定を結んだ旨の報道がなされた。しかし、バスの運転手の被曝リスクの問題もあり、バス運転手が協力するのは一般人の放射線の被曝限度を下回る場合に限るとされている。また実際に重大事故が発生した場合にバスによる避難がどの程度の実効性をもって行われるのかも不透明である。
これらの避難計画の課題を明確にするためには避難訓練を実施する必要があるところ、これも行われていない。
以上から、事故原因を適切に踏まえたとはいえない「新規制基準」に基づき、かつ、緊急時避難計画など住民の安全が確保されない状況で川内原発が運転されるとすれば、当連合会管内の九州電力玄海原子力発電所を含む日本全国の原子力発電所の拙速な運転をも許容することになるのであり、各原発周辺の膨大な数の住民を生命・身体の危険にさらすものであって当連合会としては到底容認できない。
したがって、当連合会は、九州電力に対して、川内原子力発電所1号機の運転を停止するよう、強く求めるものである。

2015(平成27)年8月11日
九州弁護士会連合会
理事長 前田和馬