「私には二人の男の子がいます。他人事ではありません。この子達に『戦争をしない国・日本』を引き継ぐことが、大人としての責任だと思っています」(山﨑あづさ弁護士)
安保法制違憲福岡訴訟の第1回口頭弁論が開かれました。
山﨑あづさ弁護士による訴状の要旨の陳述に続き、原告団から石村善治福岡大学名誉教授、木村公一牧師が意見を平和への思いを訴えました。
山﨑あづさ弁護士による訴状要旨の陳述を紹介します。
1 はじめに
2015年9月19日未明、新安保法制法が成立しました。
私たちがこの訴訟で何より訴えたいことは、この新安保法制法が違憲だということです。
2 新安保法制法の違憲性
(1) 新安保法制法の柱は、集団的自衛権の行使を可能にすることと、他国の軍隊への後方支援活動の範囲を拡大することにあります。これが違憲であるということについて、以下述べます。
(2) まず第一に、集団的自衛権の行使が憲法9条に反するということです。
憲法9条1項の解釈について、政府は、従来、日本が直接武力攻撃された場合の自衛権の発動までは否定されていないとし、その一方で、集団的自衛権の行使、すなわち、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、他国に対する武力攻撃を実力で阻止することは、憲法9条に反し許されないとしてきました。
ところが、2014年7月1日、安倍内閣は、これまでの確立した解釈を覆し、集団的自衛権の行使を容認することなどを内容とする閣議決定を行い、これを実施するための法律を制定するとしました。この法律こそ、新安保法制法です。
新安保法制法は、自衛の名の下に自衛隊が出動できる要件を緩め、集団的自衛権の行使を可能にしています。さらにその要件も、評価のしかたでどのようにも判断しうるような、客観的明確性のない極めて曖昧なものです。これを結局は、政府が「総合的に判断」するというのですから、何の歯止めにもなりません。
つまり、新安保法制法は、時の政府の恣意的な判断によって、日本が、他国のために、他国とともに、地理的な限定なく世界中で武力を行使することを可能にするものであり、憲法9条の規定に真っ向から反するものです。
これは本来ならば、憲法改正手続によらなければできないことです。こうした手続をとらず、閣議決定で解釈を変え、法律を作って既成事実を作ろうとするやり方は、憲法改正手続を潜脱するものです。そして、国家権力に縛りをかけ、国民の権利・自由を確保しようとした立憲主義の理念を踏みにじるものです。
(3) 第二に、新安保法制法が想定する後方支援活動等の実施が、憲法9条に反するということです。
新安保法制法は、政府が判断すれば、いつでも、そして地球上どこでも、自衛隊を派遣し、武力行使をする外国軍隊への協力支援活動を行うことを可能としました。
そしてこの後方支援の内容には、これまで禁止されていた弾薬の提供、戦闘作戦行動のために発進準備をしている航空機に対しての給油・整備など、より軍事色の強いものが新たに加えられました。
こうした後方支援活動は、いわゆる兵站活動といわれるものであり、国際法上は武力行使の一部と評価されているものです。
従来の政府解釈では、自衛隊の活動領域を「非戦闘地域」に限定し、また協力の内容も限定することで、そこでの協力支援活動は憲法9条が禁ずる武力行使にはあたらないとしてきました。
ところが、新安保法制法は、この限定を取り払い、支援活動ができる範囲を「現に戦闘行為が行われていない地域」にまで広げ、そのような場所であれば世界中どこででも、弾薬の提供までをも含む明らかな兵站活動ができるとしたのです。
これは、紛争の相手国から見れば、他国の軍隊とまさに一体となって武力を行使する支援部隊にほかなりません。これは憲法9条1項の禁ずる武力行使であり、憲法に違反することは明らかです。
3 原告らの権利侵害
このように新安保法制法は明らかに憲法違反の法律ですが、残念ながら、日本の裁判所では、法律の違憲性だけを抽象的に審査するということが行われていません。
そこで、新安保法制法制定により、原告らの権利がどのように侵害されているかという点について、以下述べます。
(1) 平和的生存権の侵害
第一に、平和的生存権の侵害です。
これまで、日本国民は、憲法前文と9条に基づいて、戦争を放棄して戦力を持たず、武力を行使することのない平和国家日本の下で平和のうちに生きてきました。
ところが、集団的自衛権の行使が可能となると、日本が積極的に他国の戦争に海外にまで出向いて参加し、武力を行使して、日本が戦争当事国となる危険性が飛躍的に高まります。
そうすれば当然に、敵対国ないし敵対勢力からの武力攻撃、あるいはテロ攻撃を、日本の領域に対しても招くことになります。すなわち、日本の国土が戦場となりうるのです。
特に北朝鮮との関係で集団的自衛権の行使がされれば、朝鮮半島にもっとも近い都市である福岡市の市街地や、軍民共用となっている福岡空港、福岡県内・北部九州に点在する自衛隊の基地は、直ちにミサイル反撃の目標になりえます。また、玄海原子力発電所もミサイル攻撃の対象となる可能性があります。
日本が実際に戦争に突入した場合はもちろん、それに至らない段階でも、いつ戦争に巻き込まれるかという不安の中で暮らさなければならない状況は、日本国憲法前文に規定された「平和のうちに生存する権利」すなわち平和的生存権を侵害するものです。
(2) 人格権・幸福追求権の侵害
第二に、人格権・幸福追求権の侵害です。
憲法13条は、「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」と規定します。
この憲法13条に基づいて保障されるべき個人の生命、身体、精神、生活等に関する権利の総体は、「人格権」と言われています。
日本が他国の戦争の当事者となり、あるいは他国の戦争に巻き込まれることとなると、国民・市民はさまざまな権利侵害を受けることになります。
まず、米軍基地、自衛隊基地、原発施設等の周辺の住民は、敵対国から真っ先に攻撃の対象とされる可能性が高く、生命・身体を直接に侵害される危険に晒されます。
また、有事体制においては、地方自治体や民間企業を含む指定公共機関に協力体制が義務付けられ、そこで働く公務員や労働者が危険な業務に直面したり、医療従事者、交通・運輸労働者などが関係業務への従事に駆り出されたりするなどの事態が生じます。さらに、海外で人道的活動に従事しているNGO関係者、民間企業の海外勤務労働者などは、その活動が不可能になる可能性があります。
そして戦場に駆り出されるのは自衛隊員を含む現在の若者であり、あるいは将来の担い手としての子どもたちです。我が子や孫を、殺し殺される戦場に送り出すことを強いられる家族の苦悩にも、耐え難いものがあります。
このようなことが現実に起こりうる今の状況は、まさしく、原告らの人格権・幸福追求権を侵害するものです。
(3) 憲法改正・決定権侵害
第三に、憲法改正・決定権の侵害です。
憲法96条1項は、憲法改正手続を定めています。そこでは国会の各議院の総議員の3分の2以上の賛成による発議のほか、国民投票による国民の過半数の賛成が要件とされています。このように国民投票が設けられているのは、それぞれの国民に、憲法改正の内容について直接自ら意思表示をし、その決定に参加する権利を保障するためです。つまり、国民は、国民主権と民主主義の担い手として、憲法の条項と内容を自らの意思に基づいて決定する権利を有しているのです。
ところが、新安保法制法は、憲法改正手続を取らずに、閣議決定と法律制定だけで、憲法の内容を実質的に改変しようとするものです。しかも、その国会審議の過程においては、多くの国民が明らかに反対の意思を表明していたにもかかわらず、これを押し切って、数の力で採決が強行されました。
このような新安保法制法の制定は、原告らが自らの意思に基づいて憲法の条項と内容を決定する権利をないがしろにし、これを侵害するものです。
(4) 権利侵害を受けたことによる精神的苦痛
原告らは、皆、平和を望む国民・市民です。その中にも、戦争体験者、基地や原子力発電所周辺の住民、地方公共団体や指定公共機関の労働者、医療従事者、交通・運輸労働者、教育者、宗教者、女性、子どもを持つ親、若者、憲法研究者など、様々な立場の者がいます。
皆それぞれ、憲法違反の新安保法制法が制定されたことによって、自己の権利を侵害され、様々な精神的苦痛を受けています。
私たちはこれからこの訴訟において、新安保法制法が国民の権利をいかに侵害しているかを明らかにしていく予定です。
4 おわりに
時の政府が、違憲の壁を乗り越えるために、閣議決定で憲法解釈を変更し、国会では違憲の法律を数の力で強行的に成立させる。このようなめちゃくちゃなやり方に対して、司法は何も言えずただ黙っているのでしょうか。
私は、弁護士として、法曹の一人として、この危機的状態に対し、何もしないで見ていることなどできないと思い、この訴訟に加わりました。今ここで、司法の力で違憲な法律を食い止めなければならない。そこに私が弁護士である意味がある、そう思いました。そして私には二人の男の子がいます。他人事ではありません。この子達に、「戦争をしない国・日本」を引き継ぐことが、大人としての責任だと思っています。
国民の権利を守る最後の砦となるのが裁判所の役割です。そして違憲立法審査権は、裁判所のみに付与された権限です。
政府が憲法違反の法律を制定し国民の権利侵害が現実のものとなっている今、新安保法制法が違憲であることを宣言し、国民の権利を救済する判断をくだすことを、裁判所に強く求めます。
安保法制違憲福岡訴訟-この道であっていますか?
平和を求めるみなさんの気持ちを国にぶつけませんか。子どもに平和な未来を残す大人の責任として。
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