声明

2024年(令和6年)3月6日

 弁護士 後藤富和

 本日、福岡市の公立小中学校で起こった教師の理不尽な指導によって児童生徒が心身に深い傷を負った複数の事案について、福岡県弁護士会に人権救済申し立てを行った。各事案の概要は後記【事案の概要】のとおりである。

 私達は、福岡県弁護士会に対し、以下の3点を要望した。

1 福岡市公立小中学校にける教師の理不尽な指導(叱責、暴言、暴行など)によって児童生徒が傷付けられている実態及びその被害状況の調査されたい。

2 福岡市に対し、教師の理不尽な指導で児童生徒が傷つくことがないよう、その原因の除去及び再発防止策(例えば、アンガーマネジメント研修の必修化、理不尽指導があった場合の第三者委員会の設置及び調査、相談窓口の設置等の実効的な対策)を取ることを求められたい。

3 福岡市に対し、教師の理不尽な指導によって被害を受けた児童生徒の心身の回復に努めること及び当該児童生徒が学校生活を送るうえで不利益がないように配慮すること(例えば、加害教師の出校停止、登校困難な児童生徒の出席に関する柔軟な取り扱い、オンライン授業の充実など)を求められたい。

 教師の理不尽な指導(叱責、暴言、暴行など)によって児童生徒が傷つけられる事件が福岡市の公立小中学校で多発している。今回3つの事件を例に人権救済を申し立てたが、いまやどの小中学校でも同種の事件が起こっていてもおかしくない状況であり、この3例はいわば氷山の一角に過ぎない。

 中には、教師の誤解によって何ら責任のない児童生徒に対して理不尽な指導が行われるケースも少なくない(もっとも仮に児童生徒の側に何らかの責任があったとしても、暴言、暴行、長時間の叱責などの理不尽な生徒指導は許されない)。

 そして、多くの事件において、加害行為後、教師から当該児童生徒に対して、口止めが行われている。

 本来学校は児童生徒が安心して勉強することができる場所でなければならない。

 しかし、現実には、いつ誰が教師の理不尽な指導のターゲットになるか分からない状況に置かれている。

 しかも、理不尽な指導をした教師が処分を受けることは稀で、多くの事件では、被害を受けた児童生徒が学校に登校することができなくなり、教育を受ける権利を侵害される結果となっている。

 今回、申立人らは、もう二度と、教師の理不尽な指導によって傷つく児童生徒が出ないように、勇気を振り絞り、福岡県弁護士会への人権救済申し立てを決意したものである。

 アンガーマネジメントができない教師が感情のコントロールができずに児童生徒に対して理不尽な指導を行う背景として、教員のストレスや職場環境の問題もあると思われる。だからといって、児童生徒の人格を否定し、教育を受ける権利を侵害して良いことにはならない。

 本人権救済申し立てを契機に、福岡市の公立小中学校において、教師の理不尽な指導が根絶することを願ってやまない。

以上

【事案の概要】

1 中学生Aの事例

 福岡市内の公立中学校教師Xは、2022年(令和4年)10月、校内 において、同校生徒から「こんにちは、おばさん」などと声をかけられたことに激昂し、たまたまその近くにいた生徒A(当時中学2年生)を怒鳴りつけた。

 生徒Aは、何で教師Xから怒鳴られているのか理解できず、自分はたまたま通りかかっただけであり何があったのかも分からないと弁明をした。

 しかし、教師Xは、生徒Aの弁明を一切聞き入れず、生徒Aに対し謝罪を要求した。

 教師Xが弁明を聞き入れず、他の生徒達が大勢見守る中で長時間に渡って生徒Aを叱責し大声で怒鳴り続けることから、生徒Aは謝罪をしないと教師Xの怒りが収まらないと考え、仕方なく教師Xに謝罪をした。

 生徒Aは、教師Xからの理不尽な叱責にさらされたこと及び同人からの理不尽な謝罪要求に応じざるをえなかったことで、屈辱感や悔しさといった多大な精神的ストレスを覚え、事件当日の夜から不眠症状に見舞われた。それとともに、アナフィラキシーショックを起こし、校内で8回も吐くほど体調に異変をきたした。

2 小学生Bの事例

 福岡市内の公立小学校に通う児童B(当時小学6年生)は、自閉スペクトラム症のため、行動の手順や方法などに強いこだわりを持つ特性があり、状況の変化に合わせて柔軟に対応することが苦手であった。そのため、同小学校の特別支援学級に通っていた。

 上記特性から、学校生活においては、本人が不安になったりパニックを起こさないために、事前に行事の内容や手順などを Bに十分に説明し理解させることが必要であった。そのことを担任教師Yも十分に認識していた。

 2022年(令和4年)10月、同校の運動会前日のリハーサルにおいて、あらかじめ予定していた隊列が変更された。

 児童Bは、事前の説明がないままに隊列が変わったことに戸惑い、隊列に着いて行くことができなかった。

 すると、教師Yは、突然、児童Bの左手首を掴んで隊列に強く引き寄せた。

 教師Yから突然左手首を掴まれ力任せに引き寄せられたことに驚いた児童Bは、パニックとなり、教師Yの手を振り払い走り出してしまった。

 この状況に冷静さを失った教師Yは、児童Bを走って追いかけた。

 教師Yから追いかけられることで余計にパニックとなった児童Bは、恐怖と不安のあまり泣き出してしまった。

 教師Yは、パニックで泣いている児童Bを捕まえ、同人の手を引っ張り引きずるようにして隊列に引き戻した。

 この間、他の教師は、教師Yの行動を制止しなかった。

 同年12月、卒業にあたって印象に残った出来事を作文にする際、児童Bは、上記運動会のリハーサルの出来事を作文にした。

 これを知った教師Yは、別の教師とともに、児童Bを別室に呼び出し、児童Bに対して作文の書き直しを命じた。

 児童Bは、なぜ書き直しをしなければならないのか理解できなかったため、教師Yらが執拗に書き直しを命じても、書き直しをしなかった。

 すると、教師Yは態度を一変させ、児童Bの面前でいわゆる土下座をし、頭を床に下げ、児童Bに作文の書き直しを懇願した。なお、同席した別の教師は、教師Yの異常な行動を静止しなかった。

 あまりに異常な教師Yの言動に接し、児童Bは精神的に多大な衝撃を受け、心的外傷後ストレス障害の診断を受け、転校したが、現在も心の傷は癒えず、不登校が続いている。

3 中学生Cの事例

 福岡市内の公立中学校に通う生徒C(中学1年生)は、2023年(令和5年)10月、授業準備時間の際、同人の机の上にチラシが置かれていることに気づいた。

 生徒Cは、チラシの表面に「招待状」と印字してあることから大切な書類だと思い、このチラシを落とし物として教卓に持っていった。なお、生徒Cは、チラシの内容を把握していない。

 すると、教卓で授業準備をしていた教師Zは、チラシを見た瞬間に激昂し、突然、生徒Cの首を掴み、教室から廊下に引きずり出し、そのまま、同人を他の生徒や教師たちの目につかない階段の踊り場につれていき、同人の体をその場に放り投げた。そのため、生徒Cは踊り場の床に倒れた。

 教師Zは、床に倒れたままの生徒Cを大声で怒鳴りつけた。

 生徒Cは、何で叱られているのか理解できなかったが、チラシがきっかけとなって教師Zが激昂したことから、教師Zに対して、自分はチラシとは無関係であり、単に落とし物として届け出ただけであることなどを教師に説明しようとしたが、教師Zは一切聞き入れなかった。

 教師Zは、授業をせずにおよそ30分間にわたり、生徒Cに対して、「ふざけてんのか」、「謝るのが普通だろ」、「どうやって責任を取るんだ」、「クラスメイトの成績を下げるかお前の成績を下げるか選べ」などと大声で説教を続けた。

 生徒Cは、教師Zの要求が理不尽であるものの、長時間にわたり大声での説教を受け、自分が謝罪しなければクラス全員の成績を下げられることから、泣きながら頭を下げて教師Zに謝罪をした。

 それでも教師Zの怒りは収まらず、授業ができなかった責任を生徒Cのせいにして、生徒Cに対し、「お前が授業しろ」、「授業してとお願いしろ」と要求した。

 そこで、生徒Cは、教師Zに頭を下げて「授業をしてください」とお願いをしなければならなかった。

 さらに、教師Zは、生徒Cに「親には言うな」と口止めをした。

 生徒Cの帰宅後、生徒Cの異変に気づいた保護者が、生徒Cに問いただしたことで、本件が保護者に知れることとなった。生徒Cの保護者が、教師Zに電話をしたところ、教師Zは、自己の非を認めないばかりか、保護者に対して謝罪を要求した。

 また、同校校長は当該事件について保護者に対し、教育委員会に報告し適切に対処していると言いながら、実際には報告をしていなかった。

 さらに、保護者の追求を受けて、同校校長は本件を教育委員会に報告したものの、その内容は生徒Cに責任があり、教師Zには何ら非がないという虚偽の報告であった。

 そのため、同校長の発表に基づいた報道がなされ、その報道に接した生徒Cの心はさらに傷ついた。

 教師Zによる暴行及び暴言、そして、校長による虚偽報告によって、生徒Cは精神的身体的に多大な衝撃を受け、PTSDを発症し、登校することが困難になった。

以上