校則見直しに関する意見書

【意見の趣旨】

1 あらゆる中学校・高等学校等(以下「学校」といいます。)において、合理的な理由のない校則は直ちに廃止し、校則の必要性について根本から検討すべきです。

2 学校において校則の制定・改廃手続を明確に制定すべきです。そして、校則の制定・改廃手続は、生徒が主体的に関与できるものとすべきです。

3 校則を検討するために、教職員・生徒・保護者が子どもの権利を学び、理解することが必要です。学校は教職員・生徒・保護者が子どもの権利を学ぶ機会を提供すべきです。

【意見の理由】

1 はじめに

 当会では、2021(令和3)2月、福岡市立中学校69校の校則を調査し、その結果をふまえて、中学校校則の見直しを求める意見書を発出しま した。2021年の意見書においては、1合理的理由が説明できない校則や生徒指導、子どもの人権を侵害する校則や生徒指導は、直ちに廃止し、もしくは見直すこと、2不必要な男女分けをする校則や生徒指導は直ちにやめること、3校則の制定、見直しにおいては、生徒も参加する校則検討委員会で検討するなど、生徒の意見を反映することを提言しました。

 その後、福岡市では、20217月に福岡市立中学校校長会が「よりよ い校則(生活のきまり)を目指して」を公表し、校則見直しのための留意点 を示しました。

 これらの提言を受け、福岡市立中学校では校則の見直し作業が行われまし た。しかし、見直しの後の校則の内容は、以下に述べるように残念ながら不十分なものにとどまっています。

 そこで、本意見書では、福岡市立中学校での校則見直しの状況をふまえて、 あらゆる学校における校則の意義、校則見直しの際の視点について改めて提言します。

2 子どもの権利と校則の関係

1 教育現場での子どもの権利の実現が求められていること

 日本国憲法は、第13条で、「すべて国民は、個人として尊重される。」 と規定し、同14条は、「すべて国民は、法の下に平等であって(中略) 差別されない」と規定しています。したがって、子どもも、個人として尊重され、平等に取り扱われなければなりません。子どもは人格的に自律した存在であり、基本的人権を享有する主体であることは、日本国憲法からみても当然のことです。 このことは、我が国が1994(平成6)に批准した子どもの権利条約にも明確に定められています。子どもの権利条約は、子どもが権利をもつ主体であることを認めるとともに、成長過程にある子どもならではの権利を定めています。

 2022(令和4)6月、日本国憲法及び子どもの権利条約の精神に則ったこども施策を実施することを定めたこども基本法が成立しました。 同法15条では、国の責務として、教職員、保護者を含む国民に同法と子どもの権利条約の趣旨・内容を周知し、理解を得るよう努めることが明記されました。

 そして、202212月には、教育現場における生徒指導の手引きである生徒指導提要も129ヶ月ぶりに改訂されました。そこには、「児 童生徒の権利の理解」(32頁以下)として、差別の禁止(条約第2)児童の最善の利益(同第3)、生命・生存・発達の権利(同第6) 意見を表明する権利(同第12)の子どもの権利条約の4つの一般原則 が明記され、子どもの権利条約の理解は、「教職員、児童生徒、保護者、 地域の人々等にとって必須」だと明記され、こども基本法の理解もまた必須だと明記されました。

 このように、現在、教育現場において、日本国憲法及び子どもの権利条約で保障された子どもの権利を実現することがより一層求められているのであり、子どもは大人と別の人格をもつ権利の主体であるという考え方を推進し、浸透させることは、教職員、保護者を含めた大人の責務であり、 喫緊の課題です。

2 子どもの権利を制限する校則

 子どもには、表現の自由(憲法第21条、条約第13)、プライバシーの権利(憲法第13条、条約第16)などが保障されています。また、 子どもには自己決定権があり(憲法第13)、子どもに関する全ての措置をとるにあたっては、子どもの最善の利益が主として考慮されなければ なりません(条約第3)。したがって、髪形や服装、所持品、学外での行動などは、本来子どもたちが自由に決めることができるものです。

 他方で、校則は、髪型や服装、所持品、学外での行動等について定め、 学校によって全生徒に対して画一的に示され、生徒の生活・行動を直接かつ継続的に規制している生徒指導に関する規範としての性格をもちます。 その違反に対しては、別室指導、自宅待機等の事実上の不利益処分が科され、あるいは最終的に懲戒処分等の学校による何らかの強制力が予定されています。

 文部科学省が、不登校であった者(小学6年生、中学2年生を対象)及び保護者を対象に行ったアンケート調査において、2.7%の小学生と7. 8%の中学生が「学校のきまりなどの問題(学校の校則がきびしかった、制服を着たくなかったなど)」がきっかけで不登校になったと答えており、 校則が子どもたちを苦しめ、不登校の一因になっていることが明らかとなっています(令和310月、文部科学省:不登校児童生徒の実態把握に関する調査企画分析会議「不登校児童生徒の実態把握に関する調査報告書」 参照)

 校則は、これを守らない子どもたちを学校から排除し、教育を受ける権利を奪う結果にもなっています。

3 校則制定・改廃手続と子どもの権利

 子どもたち自身は自由に自己の意見を表明する権利を有しており、その意見は考慮され、子どもはその意見を聴取する機会をあたえられなければなりません(条約第12)。校則制定にあたっても、子どもの意見を尊重し、子どもの最善の利益が主として考慮されなければなりません(条約第3)

 2019(平成31)2月に採択された国連子どもの権利委員会の 「日本の第4回・第5回統合定期報告書に関する総括所見」においても、 日本では、最善の利益を第一次的に考慮される子どもの権利が教育におい て適切に解釈されていないこと、行政機関が子どもに関連するすべての決 定において子どもの最善の利益を考慮しているわけではないこと、自己に 関わるあらゆる事柄について自由に意見を表明する子どもの権利が尊重さ れていないことが指摘されています。また、学校におけるあらゆる関連の問題に関して、すべての子どもが意味のある形でかつエンパワーされなが ら参加することを積極的に促進することを要請するとともに、ストレスの 多い学校環境から子どもを解放するための措置を強化することを勧告しています。

 こうした、国連子どもの権利委員会からの勧告を真摯に受け止め、校則の制定手続においても、子どもたちを意味のある形での参加を保障し、そ の意見を聴き、その意見を考慮することが必須です。

 こども基本法においても、子ども施策の基本理念として「全てのこどもについて、その年齢及び発達の程度に応じて、自己に直接関係する全ての 事項に関して意見を表明する機会及び多様な社会的活動に参画する機会が 確保されること」(同法33)が明記されています。

4 校則の見直しには主権者教育の実践という側面があること

 2016(平成28)6月から18歳選挙権が導入されたことに伴い、2017(平成29)3月に告示された新しい学習指導要領では、 現代的な諸課題に対応して求められる資質・能力の一つとして「主権者として求められる力」をあげ、小学校・中学校・高等学校の各段階を通じて 教科等横断的な視点で育成するとしました。そして、児童生徒にとって一 番身近な社会である学校生活の充実向上を図ること目指す活動は、主権者としての意識を涵養する上で大変重要であり、これらの活動の充実を図ることを求めています。

 校則は生徒が参加する社会である学校のルールであり、校則見直しは学校生活の主体者としてより良い学校生活づくりへ参画することに他ならず、学習指導要領の目指すべきところにも合致します。子どもたちが、自らの学校生活上のルールである校則ついて主体的に考え、意見を述べ、手続に参加することは、文部科学省が推進している主権 者教育にも資するものであり、将来の社会の担い手として子どもたちが成 長発達していくことにつながるものです。

3 福岡市立中学校の校則見直しについて

1 福岡市立中学校における校則見直しの流れ

 2023(令和5)21日、福岡市教育委員会は、福岡市立中学校の校則見直しの結果について記者会見を開き報告しました。

 同委員会の報告によれば、同委員会と福岡市立中学校校長会は、2021(令和3)に「校則検討協議会」を設置し、同協議会において今後の校則のあり方を協議しました。

 同年7月、福岡市立中学校校長会は提言「より良い校則を目指して」を発表し、市内全中学校校長に配布しました。

 同月から市内各中学校では校内校則検討委員会による校則見直しに着手し、2022(令和4)4月から、見直した校則の運用を開始しました。

 その上、同年7月からは、2023年度(令和5年度)運用に向け、校内校則検討委員会でさらなる見直しを実施しました。

2 福岡市立中学校における校則見直しの成果

 上記見直しの結果、特に以下の5項目について、すべての学校で2022年度(令和4年度)中に見直しの手続を完了する予定で、2023年度 (令和5年度)からは「すべての中学校で合理的説明ができない校則内容」が解消する予定であると発表しました(福岡きぼう中を除く69校中)

R3→R4→R5予定

制服規定の男女別記載 192校0校

アンダーウェア用Tシャツの単色指定 131校→0

頭髪規定の男女別記載 421校0校

ツーブロックの不可・禁止記載 375校0校

ポニーテールの不可・禁止記載 63校→0

 福岡市教育委員会の発表によれば、校則見直しによって、

・校則に、生徒の意見が反映したことにより生徒の自主性が高まった

・校則に関して、生徒が主体的に守ろうとする態度が身についた

と成果を強調しました。

 その上、今後の取組として、

できるだけ早期に、全校がホームページに校則を掲載し、公表する(2023(令和5)3月までに)

生徒自身が考え、教師や保護者、地域の方と協働していく取組みを継続して実施する

としました。 さらに、記者会見において、福岡市中学校校長会会長は、「生徒たちには、自分で決めた校則を自分で守るという意識を持ってもらいたい」とコメントしました。

3 福岡市立中学校の校則見直しついての評価

(1)評価できる点

 福岡市教育委員会と福岡市立中学校校長会が主導して、市内各中学校で校則の見直しが行われ、特に、前記5項目の校則が、すべての中学校で廃止されたことに対しては、以下のとおり積極的に評価できる点もあります。

 まず、前記5項目は、不必要な男女分けや、生徒の人権を侵害する内容であり、明らかに理不尽なものです。この理不尽な校則を廃止したという点は、学校が生徒にとって安心できる場所となるための重要な取り組みであると評価できます。

 また、従来、校則が各校校長の裁量に委ねられていることから、教育委員会として指導などはできないとしていたところ、今回、福岡市においては、教育委員会と校長会が主導する形で各校校長に校則の改善を求めており、生徒の人権確保に積極的な役割を果たしたことについても評価できるものです。

(2)取り組みが不十分である点

 他方で、今回、見直しを行った5項目については、2021(令和3)217日に、当会が発表した「中学校校則の見直しを求める意見書」において指摘したように、直ちに廃止・見直すことが必要な人権侵害行為であって、そのような人権侵害と評価せざるを得ない理不尽な校則が現時点においてもいくつかの学校で残っていたということについては驚きを禁じえないものです。弁護士会や市民団体などから繰り返し見直しを求められていた理不尽な校則について、ようやく見直されたというものにすぎません。

 例えば、見直し内容として、アンダーウェア用Tシャツの単色指定をする学校が0校になるというものがあります。しかし、アンダーウェア(下着)の色が白一色であったところに、ベージュやグレーの色も許可するとして2色あるいは3色指定としたところで、そもそも生徒にとってきわめて私的な領域である下着の色について学校が指定をするということ自体が合理的理由のない理不尽なものであって、生徒の人権を不当に侵害するものであると言わざるを得ません。

 また、福岡市教育委員会は、前記5項目の見直しをもって、「すべての中学校で合理的説明ができない校則内容」が解消したとしますが、こ 5項目はどのような理屈をつけようと理不尽な人権侵害であることは 明らかであって見直すのは当然のことです。これ以外にも、例えば、靴下の色や長さの指定や、眉毛を整えてはならないといった合理的理由が説明できない校則や生徒指導は残ったままとなっており、「すべての中学校で合理的説明ができない校則内容」が解消したと評価するには程遠い状況です。いわばようやく校則見直しのスタートラインについたという状況に過ぎません。さらに、福岡市教育委員会は、校則見直しに「生徒の意見が反映したことにより生徒の自主性が高まった」ことを強調します。この点、校則見直しへの生徒の関与については各学校で取り組みに濃淡があり、アンケート(しかも記名式)を取っただけに終わったり、生徒総会において予め準備した校則案を示して拍手で承認するなど形ばかりの生徒参加にとどまっていたりする例も多くあります。生徒が主体的かつ積極的に校則見直しに取り組んだというには程遠い実情にあります。

(3)抜本的な改革が必要であること

 福岡市立中学校校長会会長は、「生徒たちには、自分で決めた校則を自分で守るという意識を持ってもらいたい」と言いますが、前記の通り、形ばかりの生徒参加に過ぎない状況で、自分たちで決めたということを根拠にして生徒に校則を守らせることは、理不尽な校則を追認するものであって許されるものではありません。

 生徒にも自由・人権が保障されていること、生徒の自由・人権を制限するには合理的な理由が必要であることを、各校校長及び現場の教職員が徹底して学び理解し、合理的な理由を説明できない理不尽な校則については、教職員自らが率先して直ちに廃止するべきです。

 その上で、生徒が安心して学校生活を送るという目的のために、どのような決まりが必要なのか、あるいは決まりが必要でないのかを、生徒が主体となって考えるべきです。

 以上に述べたことは、福岡市立中学校に限るものではありません。

4 今後の見直しのあり方

1 社会のルールを超えて校則で制限することが必要なのか

 社会では、自由や権利を一律に制限する場合には、厳格な手続を踏んで制定された社会のルール(法律等)によらなければならないとされています。例えば、刑務所にいる人については、靴下や下着に制限が設けられていますが、通常はどのような服装をするかは個人の自由であることから、たとえ犯罪を犯した受刑者に対してであっても,厳格な手続に則って目的と手段を吟味した上でしかこのような制限をすることはできません。

 他方、学校では、厳格な手続を経ることなく制定された校則で、子どもの自由や権利が一律に制限されています。これまでの校則調査をふまえると、「中学生らしさ」という曖昧な目的のもと、生徒の靴下や下着の色までもが制限されています。しかし、学校も治外法権ではない以上、靴下の色を指定することには、何らの合理的理由はないはずです。ましてや、生徒の下着の色を指定するといった規制は、セクシュアルハラスメントとして法的責任をも問われかねません。

 このように、わが国では、法律等によって社会のルールが定められている以上、表現の自由、プライバシー権、自己決定権、教育を受ける権利などの重要な基本的な人権や自由を校則で制約し、法律以上の厳しいルールを課すことには慎重でなければなりません。子どもの権利条約も、学校の規律は子どもの尊厳に適合する方法であることを求めており(条約第282)、条約に適合する形で校則の在り方を検討することは必須です。

 仮に、学校という集団生活における一定のルールが必要だとしても、ルールによって制限される子どもたちの自由・権利は何なのか、制限されることで守られるものは何なのかを十分に検討する必要があります。そしてその検討をするにあたっては、今ある校則をベースにその校則を緩やかにするという視点ではなく、いったん何らの校則がない状態から、社会のルールを超えてまで厳しい校則が本当に必要かという視点で、校則の存在意義を根本から考えることが大切です。

2 校則(ルール)に必要な5つの視点

 社会のルールを超えて校則で規制をするのであれば、1規制に真に必要かつ重要な学校教育上の目的が認められること、2規制目的と規制手段(態様・程度)が実質的に合理的関連性を有することの二つの要件を満たしていることが必要ですが、当該二つの要件を満たすかどうかを判断するにあたっては、以下の5つの視点から評価することが必要です。

(1)目的が正当であること

 ルールは目的とそれに対する手段としての性格を有します。すなわち、ある事態に直面し、これに何らかの対応をする必要性があって法 が作られることになります。

 校則は学校におけるルールであることから、校則制定の目的とは、教育目的、すなわち子どもたちの成長発達、人格の形成などにとって有用な教育的な意義を達成するために必要・不可欠であり、かつ日本 国憲法及び子どもの権利条約から見て正当なものでなければなりません。教職員が子どもたちを管理することを目的として、広く子どもた ちの権利を制限することはあってはならず、一つ一つ校則の持つ意義 を具体的に検討していくことが必要です。

(2)手段が必要最小限であること

 ルールを定めると、これにより制限される権利や利益が存在します。

 そのため、ルールによる権利や利益の制限が正当なものと認められるためには、手段が目的を達成するための必要最小限のものであることや、より制限的でない他の選びうる手段がないことが必要です。

 校則についても、教育目的を達成するための手段が相当であること、すなわち、手段が目的を達成するための必要最小限のものであること、より制限的でない他の選びうる手段がないことが必要となります。特 に、校則は在学する生徒を一律に規制することになるため、一律の規 制することが必要最小限の手段であるか否かは慎重に検討すべきです。

(3)内容が公正であること

 ルールは、究極的には正義の実現を目的とするものであることから、

 立場が変わってもその内容を受け入れられる公正なものであることが必要です。一部の人にだけ過度に負担がかかるものであってはなりま せん。特に、学校は多様なアイデンティティを有する者が集まることを前提とする場所であり、画一的に校則を定めることで、かえって一部の子どもの成長発達、人格の形成にマイナスの影響を与えるおそれがあることを十分考慮しなければならないといえます。

 例えば、不必要な男女分けに基づく校則は、このような区分けにあてはまらないアイデンティティを有する生徒に過度に負担をかけるものであり、直ちに廃止すべきです。

(4)手続が公正であること

 校則は、生徒全員に影響を及ぼすものであることから、生徒全員の関与のもとで、十分な手続を尽くして制定・改廃される必要があります。校則見直しの過程においても、生徒全員が対等に関与すること、少数意見も尊重して十分に議論を尽くすこと、判断のための情報が 質・量ともに十分に収集できていることが必要です。

(5)表現が明確であること

 ルールは権利を制限するものですから、その内容が的確に表現されていなければ、認識のずれや誤解、予測不能な不利益を生じさせ、トラブルを巻き起こすことにもなりかねません。そのため、ルールの表現は明確でなければなりません。

 校則も、その内容が一義的に明らかであることが必要であり、指導する教職員によって解釈が異なるようなことがあってはいけません。

 以上の5つの視点から校則を評価し、これに反するものについては直ちに廃止すべきです。

3 校則の制定・改廃手続を明確に制定すべきであること

 文部科学省が2021(令和3)68日に発出した「校則の見直し等に関する取組事例について」にて「学校を取り巻く社会環境や児童生徒の状況は変化するため、校則の内容は、児童生徒の実情、保護者の考え方、地域の状況、社会の常識、時代の進展などを踏まえたものになっているか、絶えず積極的に見直さなければなりません。」と指摘するとおり、校則の見直しは、継続して行う必要があります。そして、前述のとおり、校則は生徒全員に影響を及ぼすものであることから、生徒全員の関与のもので、十分な手続を尽くして制定・改廃される必要があります。そのためには、どのような手続で校則の制定・改廃ができるのかを校則に明記したり、ガイドラインを制定したりすることが必要です。そして、校則の制定・改廃手続に生徒が主体的に関与できるものとすることが必要であるとともに、学校は生徒の意見を尊重することが求められます。

4 学校で子どもの権利条約を学び、実践する必要性があること

 前述のとおり、校則は子どもの権利を制限するものであり、校則の制定・改廃の手続に生徒が主体的に関与することが求められていますが、その前提として、生徒自身が自らにどのような権利が保障されているのかを知り、理解しておくことが必要です。

 しかし、現実には、国内の様々な調査において、子どもたちが自らの 権利を知らないことが報告されています(セーブ・ザ・チルドレンジャ パン「3 万人アンケートから見る子どもの権利に関する意識」https://www.savechildren.or.jp/news/publications/download/kodomo nokenri_sassi.pdf 参照)。子ども自身がどのような権利を有するのか 知らなければ、権利を制限する校則の意味や校則の制定・改廃手続に参 加する意味を正確にとらえることはできません。

 前述のとおり、生徒指導提要においても、子どもの権利条約の理解が児童生徒にも必須とされており、学校において、生徒に子どもの権利条約及び、同条約で保障された子どもの権利を教育することが求められます。そして、校則制定権がある学校長はもちろんのこと、生徒と関わる教職員も子どもの権利条約を学び、理解することが必要ですし、保護者もまた同様です。そのため、学校は、生徒や教職員、保護者が子どもの権利を学び、理解することができる機会を提供することが強く求められています。

5 おわりに

 子どもの権利条約の採択を機に、子どもに対する考え方(子ども観)は変わりました。また、子どもを取り巻く環境も日々変化しています。その ような変化に伴い学校も変わらなければならず、子どもの権利に制約を加 える校則も変わることが求められています。

 ただ、現実には、長期間にわたって変わることなく残っている校則が数多く存在します。それらの校則の中には、過去の教育現場において、一定 の効果があったものもあったでしょう。しかし、過去に正当と評価された ものがその後も引き続き正当であり続けるとは限らないのであり、校則も 例外ではありません。

 子どもたちが権利行使の主体として生きる場である学校の在り方を見つめ直し、今という時代に適合した校則を再構築することが求められます。

 学校は、家庭と並んで子どもが最も長い時間を過ごす場所であり、子どもの発達・成長に大きな影響を与えます。子どもたちにとっての学校が、 大人になるために耐え忍んで通う場所ではなく、「自分らしさ」を大切に しながら幸せに生きることができる場所となることが今、求められていま す。

以上

2023(令和5)526

福岡県弁護士会

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https://www.fben.jp/statement/dl_data/2023/0526.pdf