眉毛校則とそれに基づく理不尽な生徒指導が県内でいまだに横行しているので、今年4月に、久留米市の公立中学校に提出した要望書を再掲します。
要望書
第1 要望の趣旨
1 当該生徒に対する別室登校処分を直ちに撤回してください。
2 当該生徒に対して、「眉を剃ったり、抜いたり、カットしたりしない」といった合理的理由がない校則に基づく理不尽な指導を直ちにやめてください。
第2 要望の理由
1 事案の経緯
当該生徒は、貴校に通う中学3年生の生徒です。
2022年(令和4年)4月6日、貴校の一学期始業式のため、当該生徒が登校したところ、貴校教師が当該生徒に対して、当該生徒が両眉間及び眉下の産毛の手入れをしていたことについて校則違反であるとの指導を行いました。
上記指導の結果、翌7日から、当該生徒は、教室に入れてもらえず、別室にて一人だけ自習をするいわゆる別室登校処分を受けることとなりました。
週が明けても当該生徒に対する別室登校の処分は続きました。
2 上記指導は重大な人権侵害であること
(1)別室登校処分が重要な人権を大きく制約していること
当該生徒は、上述のとおり、始業式の翌日の7日から翌週にかけて、教室に入れてもらえず、別室にて一人だけ自習をするという別室登校処分を受けました。当該生徒は、別室で貴校教師から「お絵かきをしていていいよ」などとも言われました。
本件別室登校処分は、他の生徒と共に授業に参加する機会自体を奪うという点で、当該生徒の教育を受ける権利(憲法26条1項)を大きく制約しています。
(2)校則及び生徒指導が合理的だとして許されるための要件
このような重要な人権である教育を受ける権利を大きく制約することがゆるされるのかを、2021年に発表された文科省事務連絡、福岡市立中学校校長会の「より良い校則をめざして」、福岡県弁護士会意見書を参照して検討します。
ア 文科省事務連絡
文部科学省令和3年6月8日付事務連絡「校則の見直し等に関する取組事例」(以下「文科省事務連絡」という。)で確認されているように、そもそも校則には明確な法的根拠はなく、「学校が教育目的を達成するために必要かつ合理的な範囲内において」定めることが許されたものにすぎません。
それゆえ、校則による生徒の自由(人権)に対する規制が許されるためには、その規制に真に必要かつ重要な教育目的があること、及び、規制の態様・程度がその目的と実質的に合理的な関連性を有する必要があります。
校則の内容が「社会通念に照らして合理的とみられる範囲内で」なければならないこと(文科省事務連絡別添2)はいわば当然のことです。
また、教員が「いたずらに規則にとらわれて、規則を守らせることのみの指導になっていないか注意を払う必要」があるという当たり前のこともあらためて確認されています(文科省事務連絡及び別添2)。
さらに、校則違反の生徒に対して懲戒等の措置をとる際には「当該措置が単なる制裁的処分にとどまることなく」「教育的効果を持つものとなるよう配慮しなければ」ならないのは当然のことです(文科省事務連絡別添2)。
イ 福岡市立中学校校長会「よりよい校則を目指して」
福岡市では、後記福岡県弁護士会の意見書及び前記文科省事務連絡を受けて、2021年(令和3年)6月、弁護士などを委員とした校則見直し検討協議会を設置。同協議会の提言を受けて、同年7月、福岡市立中学校校長会は「よりよい校則を目指して(提案)」を発表しました。
この提案を受けて、福岡市内のすべての公立中学校で校則の見直しが行われました。
この提案は、「生徒の人権を尊重した、よりよい校則への見直しを提示したい」と提案に至る経緯を述べ、校則は「生徒のためのもの」であり「生徒を管理するためのものではない」ことが確認されました。
また、校則を通して「自分でよりよいものを選択する力」、「一人ひとりの人権・多様性を尊重する態度」を養うことを目指し、教師主導の生活点検については「生徒の人権に配慮したものとなっていたか見直す」ことが求められているところです。
この提案で求められていることは、今回あらたに要求されたものではなく、校則の性質上、すべての公立中学校の教職員に求められている当然の内容を確認したものであるといえます。
ウ 福岡県弁護士会意見書
福岡県弁護士会は、福岡市内の公立中学校の校則及び生徒指導の実態を調査した上で、2021年(令和3年)2月17日、文科省、福岡県教育委員会、福岡市教育委員会、北九州市教育委員会に対して、「合理的理由が説明できない校則や生徒指導、子どもの人権を侵害する校則や生徒指導は、直ちに廃止し、もしくは見直す」ことを求める意見書を提出しました。
弁護士会が同意見を提出したのは、「校則を検討するにあたっては、①規制に真に必要かつ重要な学校教育上の目的が認められること ②規制目的と規制手段(態様・程度)が実質的に合理的関連性を有することの2つの要件を満たしていることが必要であり、いずれかの要件を満たさない場合には当該校則については廃止や見直しが必要となる」ところ、校則には「生徒の学校生活を必要以上に制限するものが多数存在し」「そのいずれにも真に必要かつ重要な学校教育目的上の目的を認めることができず、規制するだけの合理的理由を見出すことができ」ず、「校則の指導の中には、生徒の人権を侵害するような指導方法も認められ」るため、「直ちに見直しが必要である」としたものです。「校則は学校におけるルールであるが、本来、ルールは『人を縛るもの』ではなく、『人(特に弱者)を守る』役割を担うものである。したがって、本来校則は、生徒が教育を受ける権利を保障するとともに、学校という集団の中で個々の生徒の人権を保障する役割を担うべきもののはずである。しかし、現在の校則は、単に上(教職員側)から生徒を縛るものになってしまっており、生徒の権利や人権を守るという役割がほとんど果たされていないものとなってしまっている」実情に鑑み、中学校の校則について早急に見直すことを求めたものです。
エ 小括
このように、本件校則及び生徒指導が合理的だとして許されるためには、①規制に真に必要かつ重要な学校教育上の目的が認められること、 ②規制目的と規制手段(態様・程度)が実質的に合理的関連性を有することの2つの要件が必要であり、その両方あるいはいずれかの要件に欠ける校則や生徒指導は生徒に対する人権侵害であると言わざるを得ません。
(3)眉に関する校則及び別室登校の不合理性
「眉を剃ったり、抜いたり、カットしたりしない」との貴校の校則について検討すると、福岡県弁護士会の前記意見書にもあるように、そもそも「眉毛に手を加えることを禁止することにどのような教育目的があるのか不明である」と言わざるを得ません。また、「仮に何らかの教育目的があったとしても、眉毛の形状にコンプレックスのある生徒もいることも容易に想像できることから、眉毛に手を加えることを一律に禁止することは過度な制限であると言わざるを得」ず、規制目的と規制手段との間に実質的合理的関連性も認められません。
この点、福岡市教育委員会が今年3月に公表した福岡市内の某中学校のいじめ事案に関する調査報告書において、生徒が眉毛をいじったことを理由に、顧問の教師が個別指導をし、練習に参加させず部室の掃除等をさせた事案について、「眉毛をいじることを一律に禁止して指導対象とする校則」は「それ自体合理性に疑問がある」と認定しています。また、指導については「他の部員に見える形でペナルティを与えている点(それによって申立人に羞恥心という心理的負担を与えている点)において、適切性を欠くものであった」と認定しています。
同調査報告書では、教師が生徒に強いる連帯責任について「当該指導は過度に連帯責任を部員らに追求するものと受け止められるもので」「いじめにつながった可能性も否定できない」としています。
これを貴校について当てはめると、当該生徒に対して行われた、眉毛を理由とした個別指導は、そもそも「眉を剃ったり、抜いたり、カットしたりしない」として眉毛をいじることを禁止した校則自体の合理性に疑問がある上に、その校則に違反したことで当該生徒だけ教室に入れてもらえず別室にて自習を強いられるという他の生徒に見える形でのペナルティを与えるものであって適切性に欠けるものと言わざるを得ないものです。また、貴校において、当該生徒に対して指導をする際に多用される「連帯責任」については、いじめにつながるような原因を学校や教師が作り出していると言わざるを得ず、安易に生徒指導として用いるべきものではありません。
(4)小括
貴校において、当該生徒に対して行われた、眉毛を整えたことを理由とする別室登校の処分は、規制に真に必要かつ重要な学校教育上の目的が認められず、規制目的と規制手段が実質的に合理的関連性を有しておらず、当該生徒に対する重大な人権侵害であると言わざるを得ません。
3 まとめ
以上の理由から、当該生徒に対する別室登校処分を直ちに撤回することと、当該生徒に対して、「眉を剃ったり、抜いたり、カットしたりしない」といった合理的理由がない校則に基づく理不尽な指導を直ちにやめることを求めます。
貴校が本要望に従わず、当該生徒に理不尽な指導を繰り返す場合には、当該生徒に対する重大な人権侵害が行われたものとして、貴校及び貴市教育委員会に対する法的責任追及も辞さない覚悟であることを付言いたします。
以上
参考資料
文部科学省事務連絡「校則の見直し等に関する取組事例」(2021年(令和3年)6月8日)
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1414737_00004.htm
福岡市立中学校校長会「よりよい校則をめざして」(2021年(令和3年)7月)
https://www.city.fukuoka.lg.jp/kyoiku-iinkai/seitosido/ed/kousoku_2.html
福岡県弁護士会「中学校校則の見直しを求める意見書」(2021年(令和3年)2月17日)
https://www.fben.jp/suggest/archives/2021/02/post_396.html
福岡市教育委員会いじめ防止対策委員会「調査報告書」(2022年(令和4年)3月)
https://www.city.fukuoka.lg.jp/data/open/cnt/3/95295/1/hokokusyo_chu.pdf?20220404121856
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#子どもの権利