PTA加入問題について「理想的な運営」がなされていたのに、あえて改悪するケースが出てきています。PTA会長が代わった途端に元に戻るというのはPTAあるあるです。
そのようなケースについて相談を受けましたので、当該PTAに対して意見書を発出しました。
PTA加入に関する意見書
【意見の趣旨】
1 速やかに臨時総会を開催して、貴校PTA規約(以下「規約」という。)を2023年度の規約の文言へと戻してください。
2 規約が改正されるまでの間、非加入希望者や退会希望者が出た場合、「特段の事情」を要求せず、非加入や退会の理由を問うことはしないという運用をしてください。
3 会員家庭の生徒と非会員家庭の生徒を不当に区別することのないようご配慮をお願いします。
4 貴校PTAにおいて保有する非会員の個人情報を速やかに廃棄・削除してください。
【意見の理由】
1 規約改正の必要性
私達には、ある組織に所属したり所属しないことを自分の意思で決める「結社の自由」が憲法上保障されています(憲法21条1項)。
結社の自由が、憲法上重要な人権として保障されている以上、弁護士会など憲法や法令で加入が要請されている特別な場合を除いて、あらゆる組織は任意加入を前提としており、組織への加入を強制することは人権侵害として許されません。
PTAも当然のことながら任意加入団体であり、学校に子どもを通わせる保護者が当然に加入しなければならないものではありません。PTAに加入するか否かは保護者の自由な意思によるものであり、PTAや学校の了承が必要なものでもありません。
それにも関わらず、未だに任意加入団体であることや、必ずしも加入する必要はないことなどの説明すらせぬまま、入学した生徒の保護者を自動的に加入させるPTAが存在します。
このようなやり方は明白な人権侵害であるばかりか、PTA会長の法的責任が問われてもおかしくない事態といえます。
この点で、貴校PTAにおいては、昨年度まで規約で「本会の会員は、✕✕中学校の生徒の保護者と教職員であって加入意思確認書を提出した者とする。」と規定しており(第三条)、PTA加入の適正化の指標とされる大津市教育委員会が2018年に制定した「PTA運営の手引き」でいう「レベル2 理想的な運営」がなされていたものと高く評価できるものです。
それにもかかわらず、本年度、貴校PTAでは、規約の改訂が行われ、前記条項は大幅に見直され、第1項「✕✕中学校の保護者と教職員は本会の会員となることができる。」、第2項「原則として全教職員および全保護者を会員とし、本会の目的や活動に賛同できない特段の事情がある者は、その申し出により非会員とする。」とされました。
今年度の規約改定は、「理想的な運営」がなされていたものを意図的に改悪するものであると評価せざるを得ないものです。
今年度の規約第三条を細かに見ると、第1項においては、PTAが任意加入の組織であることを確認するものです。問題は第2項であり、入会するのが原則であって、非会員となるためには、本会の目的や活動に賛同できない「特段の事情」があること、申し出をすることが要件とされています。この点、「特段の事情」がない場合には非加入が認められないのか、非加入希望者はPTA役員らに「特段事情」を明らかにする必要があるのか、「特段の事情」と言えるかの判断を誰がするのかなど様々な問題があると言わざるを得ません。すなわち、そもそも、加入しない場合に「特段の事情」を要求することは保護者の入会の自由を不当に制限するものであって憲法21条1項「結社の自由」に対する侵害のおそれがあります。また、非加入希望者に「特段事情」を明らにすることを求めることはプライバシー(憲法13条)の侵害に当たる危険性があります。当然のことですがPTA役員らが非加入希望者に非加入の理由を尋ねることもプライバシー権の侵害になりかねません。さらに、「特段の事情」があるといえるかの判断をPTA役員など非加入希望者以外の者にさせることや、「特段の事情」に該当しないと判断した場合には非加入を認めないとすることは、実質的に保護者の入会の自由を制限するものであって違法の評価を免れません。
このように今年度改訂された規約第三条は、憲法上保障された「結社の自由」(21条1項)や「プライバシー権」(13条)を侵害するものとして違法性を問われかねず、早急な改善が必要な状況にあると言えます。
昨年度まで、基本的人権を尊重した理想的な運営がなされていたのに、それをなぜ違法性を問われかねない程改悪したのか理解に苦しむところです。
そこで、規約第三条については、速やかに臨時総会を開催して、2023年度の規約へと元に戻す形での改正をすべきと考えます。
2 規約を改正するまでの運用について
規約第三条の改正が必要であることは前記1で述べた通りです。
その上で、規約を改正するまでの期間、現在の規約の文言通りに運用することは、PTA会長の法的責任が問われかねない非常に危険な状態であると危惧しています。
そこで、規約第三条が改正されるまでの間、非加入希望者や退会希望者が出た場合、「特段の事情」を要求せず、非加入や退会の理由を問うことはしないという運用をすることを推奨いたします。
非加入や退会の理由を問うこと自体プライバシー(憲法13条)の侵害になりかねず、ましてや「特段の事情」に該当しないと判断した場合に非加入を認めないとすることは「結社の自由」(憲法21条1項)に対する人権侵害となります。
3 生徒を不当に区別しないこと
入学式や卒業式の記念品などをPTA非会員家庭の生徒には配らないといった運営をしているPTAがごく稀にですが存在します。
このような運用は、不利益を摘示することで半ばPTA加入を強制するものであり不適切だと言わざるを得ません。PTAとしてやってはいけないことの典型例としてガイドラインや研修などで繰り返し指摘されているところです。
ましてや、PTAが、会員家庭の生徒と非会員家庭の生徒を区別することは、生徒の間に分断を生むものであり生徒の健全育成を目的とするPTAとして絶対にやってはならないことです。
貴校PTAにおいても、会員家庭の生徒と非会員家庭の生徒を不当に区別することなく、すべての生徒が公平に活動に参加できるようご配慮いただきますようお願いいたします。
4 個人情報取扱上の問題について
貴校PTA個人情報取扱方針(以下「取扱方針」という。)において確認されているように、貴校PTAにおいて保有が許されている個人情報は「PTA会長に書面及び電子的方法等により提出した」「氏名、電話番号、メールアドレス」となっています。また、個人情報利用の目的は限定されており、非会員の個人情報については、例外的に保有が許された場合には該当せず「不要になった個人情報」として「適切かつ速やかに廃棄する」必要があります。
したがって、貴校PTAにおいて保有する非会員の個人情報については速やかに廃棄・削除してください。
5 まとめ
今、PTAの適正化に向け全国の多くのPTAで任意加入の徹底に向けた改革が行われています。
その点、昨年度までの貴校PTAにおいては、少なくとも規約上は全国トップレベルと評価し得る程に健全な運営がなされていました。
にもかかわらず、貴校PTAにおいては、適正化の流れに逆行してまでも敢えて規約を改悪をして半ば加入を強制しようとしています。
規約を改悪して半ば加入を強制することは、かえって保護者の反発を招く結果となってしまいます。むしろ、任意加入の徹底を継続しても、加入してもらえるような魅力的なPTA活動を模索することこそ貴校PTAの会長以下役員の皆様に求められていることだと考えます。
これを機会に、貴校PTAがより魅力的な組織となることを願ってやみません。
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