市民と弁護士が行っている憲法学習会「terra cafe kenpou」

昨夜は、山内康一さん(元衆議院議員・元JICA職員、元NGO職員)をお招きし海外援助についてお話を伺いました。
1.海外援助(国際協力、国際援助)を正当化する理屈
(1)政府の公式見解:①国際社会の平和と安定は国益、②日本のプレゼンスと日本への信頼、③日本に有利な国際環境、④相互依存、⑤地球規模の課題(気候変動、大気汚染など)
(2)私の考え:①公正で平和な国際社会の実現、②すべての人に最低限の生活と権利を保障すべき(国際的な格差是正)。生まれた国で差が出るのはフェアじゃない。③困った時はお互いさま(日本もかつて被援助国)。脱脂粉乳、東名高速、東海道新幹線。
(3)主な外交ツール:①政治力・外交力(アジェンダセッティング、調整力、リーダーシップ)。国の大きさと外交力はイコールではありません。戦後一度も戦争をしていないという日本は吉田ドクトリンのもとそれなりに評価して良いのではないか。②軍事力(戦力投射能力、軍事援助、武器輸出)、③経済力(貿易、投資、技術移転)、④国際援助(主にODA:人道援助、開発援助)、日本に留学した学生が日本を好きになる。⑤ソフトパワー(文化・広報)。惹きつける魅力。好意を持ってもらう。
【日本】①外務省、官邸、各省庁、②自衛隊、軍需産業、③経産省、JICA、JETRO、国際協力銀行、④JICA、一部はNGO、⑤国際交流基金、日本大使館文化広報班
【英国】①外務・英連邦省、②軍隊、軍需産業(旧イギリス植民地に軍事顧問を送り込み)、③DfID(国際開発庁)、④DfIDとNGO(日本のJICAに相当する機能を担う大臣・省庁がある。、⑤ブリティッシュ・カウンシル(British Council)
⇒英国の防衛費はGDPの2.5%程度。英国のODAは日本の2倍強。
武器輸出や軍事援助、海外派兵をしない平和国家は、ODAを重視すべきでは?
2.日本の政府開発援助(ODA)の現状
(1)ODA額上位:①米国:310億ドル、②英国:185億ドル(国民1人当たり日本の4倍)、③ドイツ:179億ドル、④EU:137億ドル(イギリス、ドイツなど個別の国と別にEUとしても援助をしている)、⑤日本:92億ドル、⑥フランス:90億ドル
(2)1人あたりの政府開発援助(ODA)負担額(OECDのDAC加盟22か国中)
①ルクセンブルグ:約8万3千円、②ノルウェー:約8万円、③スウェーデン:約5万円)、、、、⑳日本:約6,600円(日本は下から3番目)
*平成28年度ODA予算=約5,500億円(一般会計予算約96兆7千億円のわずか0.57%)
(3)日本は海外援助に冷淡な国。しかし、世間では「海外援助を出しすぎだ」と思っている人も多く、認識と現実のギャップが大きい。安倍総理が外遊のたびに「経済協力」を約束しているが、多くは「援助」ではなく、単なる「融資」や「借款」である。
3.安倍政権後の政府開発援助(ODA)政策の変化:目先の利益を優先
(1)かつて日本政府は「人間の安全保障」を訴えて(緒方貞子さんらが提唱)人道援助や貧困対策等に力を入れていた(90年代は世界最大の援助国だった)。しかし、安倍政権は、日本企業の海外進出支援や資源確保を優先。自国の権益確保を前面に打ち出す。啓発された国益(国際益)よりも目先の経済的利益を優先。長い目で見れば、“ソフトパワー”の低下につながる。40年前に先祖返り。自国中心の中国の援助。これは70年代に批判されていた日本の援助と同じ。安倍政権はそれに戻ろうとしている。軍事政権に対する援助はリスクが大きい。その軍事政権が倒れた時には国民の恨みの矛先が援助国に向かう。安倍政権は時の政権にカードを切るような援助をしている。(2)以前の「政府開発援助大綱」を見直し、「開発協力大綱」を閣議決定。途上国の軍隊の民生支援にODAを使えるようにした。民生支援であっても、軍隊への支援は軍事力増強につながる(理由:①予算に色はない、②民生支援の技術も軍事技術と同じ)。軍事援助は敵を作ることになる。
4.発展途上国の現状
世界人口の9人に1人(約8億人)が栄養不良
サハラ以南アフリカでは4人に1人が栄養不良
サハラ以南アフリカの5歳未満死亡率:148人/1000人(*日本は4人/1000人)
栄養不良が原因で亡くなる5歳未満の子どもは年間310万人
発展途上国の子どもの3人に1人は発育不全(栄養不良等が影響。体、心、知能)
トイレなどの基本的な衛生サービスにアクセスできない人口は25億人
安全な水にアクセスできない人口は8億人
1日2米ドルという貧困ライン未満で暮らす人口は22億人
難民が約2千万人、国内避難民が約4千万人
5. 国際援助は役に立っているのか?
貧困人口:1990年の19億人から 2015年の8億3,600万人へ 半減。
妊産婦の死亡者数は1990年以来、ほぼ半減。
教育、医療、貧困などほとんどの指標で1990年に比べて2015年は改善している。
中国やインド、ブラジル等の発展途上国の経済発展や自助努力による割合も多いが、国際援助が果たした役割は小さくない。
➢ 2015年「国連持続可能な開発サミット」の新たな目標:持続可能な開発目標(SDGs)
⇒貧困、教育、保健医療、ジェンダーの平等、環境等の17の国際目標を設定。
6.日本の援助をどうするか?
(1)政府開発援助(ODA)
かつての「人間の安全保障」優先へ戻り、短期的で利己的な国益至上主義から脱却。
アベノミクスが依拠するトリクルダウンが機能しないのは自明。困っている人を直接支援すること。
② 経済協力中心から社会開発や人道援助中心に重点を移す。より弱い人たちに届く援助。
高齢化を真っ先に迎えた日本の経験は世界特に東アジアで役に立つ。一人っ子政策で急激な高齢化を迎える中国で日本の経験を生かせる。日本の失敗例も包み隠さず伝えること。公害の経験など。日本の悪かったことも正直に伝える日本らしい援助。
③ ODAの絶対額が少なすぎるため、徐々に国際目標(GDPの0.7%)に近づける。
④ NGOに対するODAによる支援を強化する。政府機関(JICA)の直営プロジェクトを減らし、NGOや大学、地方自治体、企業等のプロジェクトへの助成を強化する。
現場の仕事はNGOが担っている。ワールドビジョンなど国の省庁に匹敵する規模の巨大NGOが活躍しているが、日本にはそのレベルのNGOがない。国の規模に見合ったNGOがない。官僚的側面もあってフレキシブルな対応が取りにくいNGOもある。欧米では大学による海外援助が盛ん。研究やフィールドワーク、先進国から途上国への知識の流入など。法整備、平和構築(武器を使わずに平和を作るシステム)。選挙制度、司法制度、警察制度の充実。警察日本の大学にもその実力はある。自衛隊じゃなくても、法務省など他省庁ができる。、
⑤ 日本の経験をいかしたユニークな技術協力や制度づくり支援を行う。公害対策、都市計画、介護や医療のシステムづくり、環境技術。課題先進国として選択肢を示す。
⑥ 中国や韓国といったODA卒業国への技術協力の仕組み(大学間の研究協力等)を強化する。特に日中間の3か国の環境協力を強化する(PM2.5、海洋環境汚染、地球温暖化等)。水と空気。中国に安定してもらうことが日本の国益になる。中国や韓国などに有償技術提供。何も無償の必要はない。中国の大気汚染には日本の技術を出す。北九州市の大気汚染のノウハウ。それがビジネスチャンスにもなる。
(2)民間の海外援助
① NGOへの寄付金優遇措置を拡充する。寄付文化を広げるための税制改革。
ふるさと納税はパイの奪い合いにすぎない。税収が減る自治体も出てくる。寄付がしやすい文化を。アメリカに比べて日本人の寄付は20-30分の1しかない。日本人がケチではなく、寄付文化を根付かせにくい税制となっている。
② ODA資金によるNGOの助成を拡充する。お金は出しても口は出さない(金はもらっても政府を監視し文句を言う)。納税者への説明責任は求めるが、政府の方針を押し付けない。NGOの自主性を尊重。
私たちの側で良いNGOを育てる。
③ 地方自治体、大学、研究機関、企業などの海外援助を支える仕組みをつくる。JICAが側面からサポート(JICAは「援助実施機関」ではなく「援助促進機関」をめざす)。
【意見交換】
その国にいる人材を活用すること。途上国の大学を出た人材の活用。現地プロジェクトのローカル化。日本の援助がなくなっても自立できるように。資材も現地で調達する。雇用の創出にもつながる。日本人が大勢行くプロジェクトは決して良いものとは言えない。高度な技術を持った少数の日本人が現地の人材を育てる。途上国の人材を日本で学ばせる。自衛隊の道路整備は非常に無駄が多い。持続性もない。ゼネコンが数人の技術者を派遣して現地の人を雇用した方が良い。
日本の大学生が途上国支援に行っても役には立たない。ただ、自分は無力だと知ることは極めて重要。
電気がない村に電気が通ることで村の生活水準は激変する。夜でも勉強ができる。
援助の究極の目的は自分たちがいなくなっても現地の人だけでやれるように。
オックスファム
フェアトレード
啓発活動、アクセスできること。
NGO福岡ネットワーク
NGO法人 ACE
児童労働←家庭の貧困対策、教育の充実、教育費の負担軽減。子どもを学校に行かせること、健康診断を受けさせることを条件に援助する。各国政府が義務としてやるべき。子どもの権利条約。

来週(4/25)は、日本国憲法施行70年を前に憲法誕生について学習します。

テーマ 誕生!日本国憲法
講師 石村善治さん(福岡大学名誉教授)
日時 4月25日(火)19:00-21:00
場所 光円寺門徒会館(天神3丁目15-12)
参加 無料

【今後の予定】
terra cafe kenpouの今後の予定をおしらせします。
特に記載がない限り火曜日19時〜光円寺門徒会館(天神3丁目15-12)です。
予定は入れ替わるかもしれません。下記サイトでスケジュールをご確認ください。
https://ohashilo.jp/lawyer/goto/active/terra-cafe-kenpou/
なお急遽会場変更になることもございます。変更の場合は下記サイトでご案内します。
https://ohashilo.jp/blog/
4月25日 誕生!日本国憲法(石村善治さん・福岡大学名誉教授)
5月2日 お休み
5月9日 朝鮮学校について(予定)
5月16日 お休み
5月23日 優生保護法の歴史(古賀稔章さん・「障がい者援護階でんくる」元代表)
5月30日 「21世紀の世界と私たちー明日の日本社会を考える」(浅香勇貴さん・日曜コラムニスト)
6月6日 お休み