今回、11年ぶりに豊岡市を訪問したのは、コウノトリと共に生きることを選択しコウノトリ放鳥に成功した豊岡市の挑戦がその後どうなっているかを確認するためです。

豊岡市は、コウノトリ野生復帰が目指すものとして「コウノトリ『も』住める豊かな環境をつくる」ことをうたっており、コウノトリも住める豊かな環境は、人間にとっても持続可能で健康的に暮らせる環境であるとして「いのち響きあう」豊岡をめざしています。1965年にコウノトリと交わした「いつかきっと空にかえす」との約束を果たしました。

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「コウノトリ育む農法」による米作り→ブランド化→手間に見合った高価(無農薬に関しては一般栽培米の約2倍)で取引されています。
1 農薬の不使用または7.5割削減
2 化学肥料の栽培期間中不使用
3 温湯消毒
4 中干し延期(オタマジャクシがカエルになるまで田んぼの水を残す)
5 生産者による生きもの調査
6 早期湛水、冬期湛水(冬のあいだに田んぼに水を張る)←最近国際語としても浸透しつつある「ふゆみずたんぼ」ですね。
7 深水管理

4-7の要件で分かるように、単に人間の体のためだけでなく、コウノトリを頂点とする生物多様性を保全するための農法です。豊岡市の水田の1割以上がこの認証を取得しており、その面積は年々増えています。そして、減農薬よりも無農薬が増えています。
農業は、イメージとは裏腹に、自然環境に与える大きなダメージを与えてしまいます。
かつて農薬の使用や圃場整備・河川改修によってコウノトリは絶滅に追いやられました。
豊岡では、コウノトリ復活のために、単に人工繁殖をするだけでなく、コウノトリも生きていける生態系を整えることに力を注ぎました。
その結果、現在、100羽以上のコウノトリが巣立ち、豊岡市や全国の空を舞っています。
今、豊岡では、農業を中心とした地域経済活動と環境保全(生物多様性保全)の調和を図り、両分野が相まって高まっていくという関係ができています。
経済と環境は対立するものと思われがちですが、人の手が入ることで環境が回復し、それによって地域経済も活性化することは可能です。かつての日本に根付いていた「里山(SATOYAMA)」の考え方ですね。

全国的問題となっている耕作放棄地について、豊岡市ではをビオトープにし生物多様性を育み、その結果、そこにコウノトリが舞い降り、ラムサール条約に登録されるに至っています。
全国的には耕作放棄地は荒れ放題となって里山としての機能を失い、奥山と人里の間を緩衝するバッファとしての役割を果たせなくなり、人里にクマやイノシシが出現し、農作物を荒らすなどのトラブルにもなっています。

豊岡市の生物多様性地域戦略「いのち響きあう 豊岡をめざして」は素敵です。
これを読むだけで豊岡で暮らしたくなる程です。
http://www3.city.toyooka.lg.jp/kounotori/tayouseiTOYOOKA.pdf

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まず「豊岡をみつめる」として、戦略策定の基礎として、豊岡がどういった地域なのか見つめ直していますが、そのヒントが面白い。そのヒントは小学校の校歌の中にあったというのです。
「老若男女を問わず、地域の誰もがイメージを共有できる校歌には、生物多様性を支える地域社会のあり方を考える大きなヒントが隠されているように思います」
人と水浴びをする但馬牛そしてコウノトリがのんびりと暮らしている昭和30年代の姿から豊岡市のめざす姿として「穏やかに響きあう いのちと地域」を目標に設定しました。
さらに目標を達成するための戦略も具体的でとっても魅力的です。
例えば
・豊岡に住む生きものをリストアップし「豊岡生きもの住民票」を作成する。
・地域の生きものに詳しい人を「豊岡生きもの博士名鑑」に登録する。
・小学校区ごとに「生きもの地図」を備える。
・公共事業における「生きもの配慮の指針」をつくる。
・「春の小川」の基準を定め「春の小川」づくりを実践。
・「豊岡版ブラックリスト」を作成。
・モデル校で1年を通じた農の営みをカリキュラムに採り入れる。
・「子どもの野生復帰大作戦」を充実。
・PTAの学年行事に生きもの調査や自然観察を採り入れる。
こんな素敵な戦略を策定できたのは、専門家の視点もさることながら、地元高校生6名を検討委員会に迎え若い視点を入れたこともあるでしょう。
各都道府県や政令市だけでなく、意識の高い自治体は生物多様性地域戦略を策定しています。中には豊岡市や宮崎県の綾町のように高い理想を掲げて具体的に取り組んでいるところもあります。しかし、環境省から戦略策定を指示されたのでとりあえず作ったというレベルのものもたくさんあります。興味ある方は福岡市の生物多様性ふくおか戦略を見てみてください。
http://www.city.fukuoka.lg.jp/data/open/cnt/3/38538/1/senryakuhonpen.pdf

エネルギーをもらった豊岡調査でした。