戦後70年を迎えるにあたっての弁護団声明
2015年8月12日
中国人戦争被害賠償請求事件弁護団
団 長 弁護士 小野寺 利孝
中国人強制連行・強制労働事件全国弁護団
山西省「慰安婦」1次2次訴訟弁護団
七三一部隊・南京虐殺・無差別爆撃訴訟弁護団
旧日本軍遺棄毒ガス・砲弾被害事件訴訟弁護団
平頂山事件訴訟弁護団
海南島戦時性暴力被害事件訴訟弁護団
遺棄化学兵器被害チチハル事件弁護団
遺棄化学兵器被害敦化事件弁護団
1 中国人戦争被害賠償請求訴訟の成果
本年は第二次世界大戦が終結してから70年の節目の年にあたる。
戦後70年の最後にあたるこの約20年間、私たち弁護団は中国人戦争被害者の代理人として日本の裁判所における戦争被害賠償請求の訴訟事件を担い、数多くの判決を得てきた。それは、被害者の被害と尊厳の回復を図るとともに、それを加害国たる日本の社会において実現することによって、日本の社会の反省と誓いを示し、以て東アジアにおける友好と平和を達成しようと念願したためでもあった。
私たちの得た判決のうちのあるものは被害者らを勝訴させ、あるものは敗訴させた。しかし、勝敗の結論如何にかかわらず、多くの判決が、侵略戦争の遂行過程における加害の事実と被害の事実を多数認定した(そのうち主だったものの概要は別紙「判決が認定した加害と被害の事実の概要」のとおりである)。加害と被害の事実を客観的に明らかにすることは、被害者加害者間の謝罪や賠償、和解の基礎となるものであり、それが事実認定に関する最高の公権力機関たる裁判所によってなされた意義は極めて大きい。
特に日本軍「慰安婦」問題をめぐって、朝日新聞による記事撤回が拡大解釈され、被害事実自体が存在しなかったかのような誤った論調がみられる現在、特に政府が「慰安婦」問題に関して虚偽を述べながらこれを撤回せず維持し続けるという、信じ難い異常な事態(注)が起こっている現在においては、裁判所による事実認定の意義はなおいっそう大きいものである。
また、裁判所が、加害と被害の事実を直視し、解決を促した例も少なくない(別紙「付言集」参照)。その典型例は、2007年4月27日の西松建設中国人強制連行事件最高裁判決(被害者ら代理人は西松訴訟弁護団)であり、これを受けて2009年から2010年にかけ、西松建設と多くの被害者(本人ないし遺族)との間において和解の成立をみた。被害者団体は、この和解にあたり、「加害者が事実を認め、深く反省して謝罪したことは、痛ましい教訓を人類の記憶として残し、歴史の悲劇を繰り返さないため」に有意義であり、これにより「人類社会に正義と希望を見出すことができた」との声明を発表した(別紙「日本に強制連行された中国人労工聯誼会信濃川分会声明」参照)。このことは、加害者が真摯に反省し謝罪すれば、例え、賠償額等について不十分さを残したとしても、被害者もこれを受け入れる努力をなし得るし、そのことが平和友好の礎となり得ることを示した好例である。
2 日中両国市民による歴史和解と平和への実践
更に、忘れてならないことは、日中両国の市民が、戦争賠償請求訴訟を通じて互いに理解と信頼を深め、裁判が終わった後もなお、被害者救済のために、また、二度と戦争による加害と被害を繰り返さないために連帯して行動を続けていることである。
例えば、遺棄毒ガス被害事件弁護団と日本の支援者は、訴訟活動と並行して日本政府に対する政治解決要求運動に取り組みつつ、中国で被害者の健診活動を行うなどの支援を続けてきたが、こうした医療支援を進める目的で、このたび、日中両国の民間団体が協力して「化学兵器及び細菌兵器被害者支援日中未来平和基金」を設立するまでに至った。 また、平頂山事件では、被害者らと日本の弁護士・市民らが心の交流を育み、二度と再び平頂山事件の悲劇を繰り返さないための、日本と中国の歴史和解と真の平和友好を願う共同の活動を現在も活発に続けている(別紙「戦後70年 平頂山事件を通じて日中の歴史和解を考える」参照)。
私たちは、こうした両国市民の実践こそが、日本と中国の歴史和解を進め、国家間の平和と安定を図る推進力であると確信する。
3 日本政府がなすべきこと
過去に日本は、国策を誤り、植民地支配と侵略戦争を遂行し、アジア諸国をはじめとする各国において甚大な被害を生ぜしめた。また国内にても甚大な戦争被害が生じた。そのような国家的過ちに対する痛切な反省と、二度と戦争を起こさないとの誓いの上にたって、徹底した恒久平和主義を掲げた日本国憲法に基づき、平和国家としての歩みを指向してきたのがこの70年間の日本であった。
今、日本がなすべきことは、中国・朝鮮を仮想敵国視し、日本を再び戦争の惨禍へと導く憲法違反の安保法制を成立させることではない。日本政府がなすべきことは、過去の侵略戦争の事実を客観的に認識し、誤りを認め、深く反省し、被害者に対し、誠実に謝罪することである。そのことが、近隣諸国との平和友好関係を築き、日本とアジアの真の安全保障を図る上では不可欠であり、日本国憲法の恒久平和主義の理念を具現化する道でもある。
私たちはこの思いから、日中両国の心ある人々と手を携えて活動を行ってきた。今後とも、この思いを抱いて一刻も早い日中の戦後補償問題の解決を目指すとともに、アジア諸国民との真の友好と平和のために一層の尽力をなすことを誓うものである。