佐賀のタイラギ漁師の平方さんの弁論
私は、上告人であり、佐賀県太良町大浦で漁船漁業を生業としています平方宣清と申します。
平成22年12月に福岡高等裁判所における諫早湾干拓事業潮受け堤防開門判決を受けた原告の一人です。その判決を国が上告せず判決は確定しました。この開門判決を聞いたとき、そして、それが確定したことが分かった時の感動は、今でもはっきり覚えています。
この判決は、有明海で漁業をする漁業者はじめ、造船鉄工所、漁具店、観光業など関連業の人々にとって将来に夢や希望が持てると、大いに喜んだことでした。漁業被害で苦しんでいる中でも、3年後に開門が実現することを信じて頑張っていける、私たちにとっての希望の判決でした。
ところが国は、開門するどころか、私たちに対して請求異議訴訟を起こしてきました。私たちには、国が開門を受け入れて判決が確定したのに、なぜ判決に従わず、逆に私たちを訴えて来るのか意味が分かりませんでした。自ら開門判決を受け入れ、開門することを私たち国民に約束したのに、途中で手のひらを反して、開門しないために裁判まで起こしてくるのがなぜ許されるのか分かりませんでした。
それでも、請求異議訴訟の一審では、国の主張が認められませんでした。国は確定判決に従わなければならないという判決が出たことで、やはり国でも確定判決は守らなければならないのだと安心しました。
しかし国は、請求異議訴訟の二審で、突然、漁業権が10年で消滅するなどと、とんでもない主張をしてきました。この主張は、私たち漁民の実態とかけ離れた主張です。私たちは、先祖代々、何十年もの間、同じ様に漁業を続けてきました。私たちにとっての漁業権は、何十年もの間継続してきたもので、10年で消滅するなど考えたこともありませんでした。
それに、開門を求めた訴訟が始まった平成14年からこの時まで、国は漁業権が10年で消滅するなどと主張したことはありませんでした。開門判決を出してくれた福岡高裁での審理でも、国はそのようなことを主張せずに開門判決が出されました。私は、素人ながらに、後からそのようなおかしなことを主張しても、確定判決に影響を与えるはずがない、国が開門しないために悪あがきしているのだと高をくくっていました。
それなのに福岡高裁は、漁業権が10年で消滅することを理由に、開門判決を執行できないという判決を出しました。信じられませんでした。確定した開門判決には、はっきりと国に開門を命じることが書いてあります。それなのに、後から国が新たな主張をすれば、国が判決を守らなくて良くなるということが信じられませんでした。だったら、あの福岡高裁の開門判決と、国の上告断念は、何の意味もなかったということでしょうか。頑張って裁判をたたかって、判決を取ることに意味はないというのでしょうか。
私は、当然、この判決を受け入れることはできず、上告しました。
判決で命じられたことを、後から理屈をこねれば守らなくて良くなるなどと認めるわけにはいかないと思いました。
何より、豊穣の海有明海を取り戻すには、何としてでも開門するしかないという信念があります。
私たち漁民は、有明海を再生するためには開門しかないということが分かっています。これまで国が開門以外の様々な対策を取ってきましたが、成果はほとんどありませんでした。
これまでに国がやったことで効果を上げたと言えるのは、短期開門調査だけです。
だから、100億円の基金を作っても、開門しない限り有明海が再生しないことは分かっています。
私たちは、潮受堤防を壊せと言っているわけでも、干拓農地を壊せと言っているわけでもありません。きちんと対策を取って開門し、農業と漁業が両立する環境を取り戻すことを望んでいるのです。
それができれば、有明地域も再生します。子供や孫たちが地域に戻って来てくれます。私の夢は、子、孫三世代同居です。息子と一緒に漁をして海の恵みに感謝しながら大漁の喜びを味わい、孫には海の生き物の生態や自然の素晴らしさを体感させてやりたいのです。
その夢が実現するまで、私は決してあきらめません。お金で夢を売るわけにはいきません。
最高裁判所が正しい判決を下してくれることを信じています。