本日は、よみがえれ!有明訴訟の請求異議控訴審(福岡高裁)でした。
よみがえれ!有明訴訟は、5年前の2010年(平成22年)12月に国に諫早干拓潮受堤防の開門を命じた福岡高裁判決に対し、国が上告を断念したことで、開門判決が確定し、長年の諍いに終止符が打たれたはずでした。
しかし、国は確定判決を守らず、未だに水門を開放していません(誤解している人もいるかもしれないので解説すると、正確に言うと、国は毎日のように水門を開けています。それは調整池に溜まった水を有明海に排水するためだけの開門で、海水を調整池に入れる方向での開門はされていません)。
国が司法判決を無視するというのは前代未聞のことです。現在、国は判決を守らないことに対するペナルティーとして毎日制裁金を払い続けています。
確定判決を覆すことはできないので、国はあらゆる手を使って判決を守らなくても良い結論を引っ張り出そうとしています。その一つがこの請求異議訴訟です。
今日の法廷では、長崎県の有明漁協の組合長が意見を述べました。有明海の漁業の現状、そして、判決を守らない国の不当性がよくわかります。ぜひご覧ください。
1 はじめに
私は,長崎県島原市の有明漁協の組合長の松本正明です。2010年(平成22年)12月6日の福岡高裁判決の勝訴原告であるとともに,本件請求異議訴訟の被告となります。
まさか,また,福岡高裁に来るとは思ってもいませんでした。
2 国の態度
国は,本来であれば,福岡高裁確定判決に基づいて,遅くとも平成25年12月には諫早湾の南北排水門を開門すべきでした。
にもかかわらず,国は,開門するどころか,開門に向けての努力もせず,さらには,開門したくないばかりに,私たち勝訴原告に対して,請求異議という裁判を起こしてきました。
その中で,国は,勝訴判決時の共同漁業権は,2013年(平成25年)8月31日に消滅したので,もはや,国は開門しなくてよいと主張しています。
しかしながら,このような主張はおかしいとしかいいようがありませんし,そもそも,このようなことを主張されるなどとは考えたこともありませんでした。
3 漁業は稼業であり「家業」であること
まず,私たちの認識として,漁業は私たちの生活の糧である稼業です。そして,親子代々,何代も続く家業でもあります。共同漁業権があるから,漁業を始めるのではありませんし,続けているのではありません。漁業の営みが先なのです。
4 同一性が前提とされていること
共同漁業権の免許の期間は10年ですが,私たち漁協の執行部は,この10年の期間が切れる前に,必ず更新の手続きをします。法律的に言えば,更新はないのかもしれませんが,私たちは更新の手続きだと考えています。
確かに,共同漁業権は,そのときどきで漁具や漁法が若干が違ったりするかもしれません。
しかし,それは,漁具や漁法の進歩等,その時々の状況に合わせて最適化して,一番有効に公共の水面を使うためのはずです。あくまで同一性が前提にあるのです。
もし仮に,10年ごとに全く違う権利に様変わりするのであれば,今,行っている漁業が次の10年もできるのか分かりません。10年目に近づくにしたがって,漁具を買ったり,設備を整えたりするなどの漁業に対する投資ができず,私たち漁業者は,安心して漁業を続けることができませんし,生活していくこともできません。同一性があるからこそ安心して漁業が続けられるのです。
そもそも共同漁業権という免許は,公共の水面をどのように使うのか,という調整のためのルールのはずです。そしてそれは,漁業者の日々の営みを,漁業を守るためのルールのはずです。
にもかかわらず,国は,共同漁業権を,漁業を守るどころか壊すための理由に使っています。
まったくもって,けしからん主張です。まさか,このようなことを,漁業を守る立場にある国,農林水産省が主張するとは思いもしませんでした。
5 漁業の現状
私は,今の時期,イイダコを捕っています。以前は,カニも捕っていましたが,諫早湾の潮受堤防締切り後は全く捕れなくなったので,今ではイイダコだけです。イイダコは,今年は去年よりは少しだけましですが,諫早湾の潮受堤防締切り前とは比べるべくもありません。ここ数年は,7月中旬になると,まるでイイダコが死んでいなくなったかのように,ぱたっと捕れなくなるので,これから先の時期は心配です。
漁業者の中には,やむをえず,ここ数年,なぜか異常発生しているクラゲを捕っている漁業者もいますが,本心は,今まで捕っていたタコやカニを捕りたいと思っています。開門して,早く元の宝の海に戻ってもらいたいと考えているのです。
このように漁場は日に日に悪くなっていきます。不漁に悩まされている漁業者には,もう,金銭的にも精神的にも余裕がありません。
6 おわりに
裁判所におかれては,一刻も早く国の請求異議という裁判を棄却し,1日でも早い開門の実現,ひいては有明海の再生に力を貸してくださるようお願いいたします。