「明治日本の産業革命遺産」のユネスコ世界遺産登録に伴う措置に中国人被害者等を含めることを求める弁護団声明
2015年8月5日
中国人強制連行強制労働福岡訴訟弁護団
第1陣団長 弁護士 立木 豊地
第2陣団長 弁護士 小野山裕治
2015年7月5日、第39回ユネスコ世界遺産委員会において、「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」を世界遺産一覧表に記載することが決定された。その中には、私たち弁護団が担当した中国人強制連行強制労働事件福岡訴訟の被害現場となった三池炭鉱万田坑も含まれている。
この決定に際して日本代表団は、「日本は,1940年代にいくつかのサイトにおいて,その意思に反して連れて来られ,厳しい環境の下で働かされた多くの朝鮮半島出身者等がいたこと,また,第二次世界大戦中に日本政府としても徴用政策を実施していたことについて理解できるような措置を講じる所存である。」、「インフォメーションセンターの設置など,犠牲者を記憶にとどめるために適切な措置を説明戦略に盛り込む所存である。」と発言した(外務省ホームページより)。
歴史的事実について、積極面のみならず消極面をも客観的に評価して記憶にとどめるべきことは当然である。
もっとも、「意思に反して連れて来られ、厳しい環境の下で働かされた」被害者は朝鮮半島出身者以外にも多数いた。私たちが訴訟を担当した中国人強制連行・強制労働事件にあっても、日本全体で約4万人の中国人労工が被害に遭っている。中国から暴力や虚偽の勧誘によって日本へ強制連行され、三池炭鉱万田坑その他の事業所で、わずかな食糧しか与えられず、暴力を伴う強制によって、劣悪な労働条件の下、過酷な強制労働に従事させられ、生命を落としたり重篤な後遺症を負ったりした中国人労工らの被害は、福岡地裁、福岡高裁の4つの判決によってその事実と違法性を認定され、強制連行・強制労働と断じられた。なおまた、中国人労工らの強制連行は、1942年に閣議決定された「移入政策」として遂行されており、朝鮮半島出身者に対する徴用政策とは法的根拠も異なっている。従って、日本代表団の上記発言によって中国人労工らの被害までもが説明できるものではない。
今後、日本政府が代表団発言によって明らかにした「(インフォメーションセンター設置などの、)犠牲者を記憶にとどめるために適切な措置」を取るにあたっては、このような中国人労工らの被害についても朝鮮半島出身者とあわせて説明に盛り込むべきである。
またあわせて、炭鉱について言えば、産業革命を担ったその歴史において、過酷な労働条件に多くの労働者が苦しみ、落盤事故や爆発事故によって多くの労働者が死傷し、またじん肺等の職業病に罹患して苦しんだ末に悲惨な最期を迎えたなどの歴史的事実も銘記されねばならず、あわせて説明に盛り込むべきである。このように消極面をも含めて記憶にとどめられるべきは炭鉱に限らないはずである。
私たち弁護団は、関係当局に対し、これらの歴史的事実をもあわせて、適切に説明に盛り込むことを求める。
以上