自由法曹団総会でシンポジウム「勝つまでたたかう学習のススメ〜集団事件の経験の縦断的・横断的共有をめざして〜」でパネリストとして、よみがえれ!有明海訴訟での経験をお話ししました。

他のパネリストは
・小林洋二弁護士(HIV、ハンセン病、HPVワクチン禍など)
・深堀寿子弁護士(じん肺、生活保護など)
・石井衆介弁護士(原発事故避難者など)
コーディネーターは、高橋謙一弁護士(水俣、産廃差止、有明海、原発差止、原発事故避難者など)
アドバイザーは、馬奈木昭雄弁護士(水俣、じん肺、予防接種禍、南九州税理士会事件、有明海、原発差止など)
僕の発言要旨。

戦後の食糧難解決のために有明海の奥部諫早湾を干拓し農地にする計画。
有明海の漁業者の反対で何度も計画断念。
そのうち米が余り減反政策で農地は必要なくなった。国は、農地造成では理解を得られないと判断し、干拓の目的に防災を追加した。諫早市はかつて本明川が氾濫し多くの死傷者を出した経験から防災を掲げると異論を挟みにくくなる。その結果、防災のためなら仕方がないと諫早湾内漁協が干拓に同意した。
1997年、諫早湾を全長7kmの潮受堤防で締め切り、堤防内部に農地と広大な調整池(淡水湖)ができた。
調整池に溜まった水は随時、潮受堤防に設置された排水門から堤防外の有明海に排出される。潮受堤防で湾を締め切ったことによる海洋環境の変化、調整池からの排水のため、有明海全域の環境が激変し、諫早湾近傍場の魚介類は死滅し、有明海全域で海苔が色落ちするなどの被害が生じた。この被害は今も継続している。
この諫早干拓による被害とは何か。
漁業者の経済的な損失か。それは最も深刻な被害だがそれのみが被害ではないし、被害の本質ではない。
宝の海と呼ばれた有明海が失われてしまったことが被害の本質。
豊かな生物多様性が失われたことも被害だし、漁民が陸に上がってアルバイトで生活をしなければならなくなったという失われた漁師の誇も被害、代々生業としてきた漁業を息子に継がせることができないのも被害、漁業者を中心に経済や文化が培われていった漁村の共同体が失われていったことも被害、数千年続いてきたであろう美しい有明の風景が失われたことも被害、有明海を地域の宝としてきた有明海沿岸地域の意識や絆が奪われたことも被害、有明海の幸で営業をしていた魚屋や料理屋、旅館なども当然被害を受けている。また、人為によって豊かな海を破壊することに多くの人が心を痛めたこと、そして、諫早湾干拓の後、韓国のセマングム干拓や、沖縄の辺野古の埋立てなど公共事業による甚大な環境破壊が止まらなくなったことも大きな被害。
だから漁民に補償金を払うことが被害回復ではない。
被害の回復というためには宝の海有明海を蘇らせるしかない。
まずは、潮受堤防の排水門を開放し調整池の中に海水を導入し浄化すること。
次に、潮受堤防を開削、撤去するなどし有明海の環境悪化の原因を取り除くこと。
さらには、有明海をかつての宝の海によみがえらせるための再生策を実行すること。
二度とこのような過ちを起こさないように環境に対する意識を高め、国を監視し続けること。
有明海をよみがえらせるためのたたかいは、ラムサール条約でいうwise useの理念の実践であり、生物多様性条約の持続可能な開発、そして、国連が提唱するSDGsを先取りしたものである。
じゃあ、有明海を死の海にした加害行為、加害者は誰か。
直接的には国による諫早湾干拓事業。
しかし、諫早湾干拓事業を推進している官僚や担当者は決められたことを淡々とこなしているだけ。彼らにはこれぽっちも加害意識はない。農水大臣もコロコロ代わりにこの事業に主体的な意識を持たない、与党自民党議員もそう。じゃあ、誰がこの事業を進めているのか。もはや亡霊。政治家と官僚、業者の癒着によって海を潰し、山を破壊し、生き物を殺し、豊かな日本の風景を失わせ、金を受け取るという利権構造。一度動き出したらそれを止めようとしないロボットのような官僚機構。この国の政治組織のあり方そのものが加害行為。その悪習が表出したのが諫早湾干拓事業であり、今に続く、石木ダムや辺野古の埋立て。
ハンセン病に関する黒髪小学校PTA事件。
ハンセン病療養所に親が収容された子ども達が黒髪小学校に入学しようとしたところ、黒髪小学校PTAが実力でその子達の入学を阻止したという事件。結局、この子達は黒髪小学校に通うことができなかった。
これは昔のことではなく、今でも起こりうる問題だと感じる。
例えば、LGBT。13人に1人が固定化した性に違和感を覚えているというのは統計上明らか。学校やPTAでも頻繁にLGBTに関する勉強会などは行われている。
でも、どこか遠くにいる可哀想な人の話として聞いていないだろうか。
どこか遠くでなく、この町内に、PTAの中にも、このクラスにいると考えたらどうだろうか。
可哀想な人ではなく、シスジェンダー(生まれた時に診断された身体的性別と自分の性同一性が一致し、それに従って生きる人のこと)と同じ権利を主張し出したらどうか。
どこか遠くの可哀想な人であれば、同情する。
しかし、あなたの隣であなたと同等の権利を要求してきたら、それまで同情していた人が途端に牙を剥く。
黒髪小PTAの保護者達もハンセン病元患者の子どもが療養所内にいる分は可哀想な人達ねと同情してただろう。でも、わが子と同じ教室で隣の机で勉強したいと言い出した途端、相手が幼い子どもであろうとも牙を剥く。
あなたの子の友達がLGBTだったら。その子が同じ教室で隣の机だったら。すべての保護者が温かく迎え入れるでしょうか。牙を剥く可能性がないとは言えない。
黒髪小学校PTA事件は過去の過ちではなく現在まで続くこの国の汚いムラ意識が生み出したもの。