市民と弁護士が行っている憲法学習会「terra cafe kenpou」


昨日のterra cafe kenpouはハンセン病家族訴訟について弁護士の池田泉さん,井上滋子さん,島翔吾さんからお話を伺いました。井上滋子さんは、18年前、司法修習生だった僕の指導担当の弁護士で僕の師匠です。

この問題は僕にとっても身につまされる今ここにある大きな課題です。

かつて,PTAが団結してハンセン病元患者の子ども(つまりハンセン病ではなく,かつてハンセン病に罹患した親の子というだけ)の小学校入学を力づくで阻止しました。それを60年前の話だと片付けてよいのか。

僕はこの問題は今のPTAや町内会などでも起こりかねないと危惧しています。

裁判でハンセン病差別が人権侵害であると明確に認められてからも,ホテルの宿泊拒否(それに賛成する一般市民の声)など差別はなくなりません。

これはハンセン病だけでなく,私達の国民性とも言える根深い人権感覚の低さに根ざしており,例えば,今で言えば,LGBTといった性的少数者への差別はないと言い切れるでしょうか。障がい者やハンセン病元患者,性的マイノリティ,在日コリアンといった少数者は,遠くにいるかわいそうな人であれば,多くの市民は温かい目で受け止めます。しかし,これらの方が自分の隣に来たらどうでしょうか。これらの方が私達と同様の権利を求めてきたらどうでしょうか。そうなった時,それまで温かい目で受け止めていた市民が途端に牙を剥きます。現に,そういった場面に僕自身何度も遭遇しています。

私達の心の奥に,かわいそうな人はかわいそうなままでいろ,その限りで温かい目でみてやるが,間違っても私達と同等の権利を主張するような生意気なことをするなという意識はないでしょうか。外国人に対してもそうです。旅行者として福岡を訪れ「ラーメン大好き」なんて言っている内はウェルカムです。でも,自分の隣に引っ越してくる,職場で一緒に働く,自分の子のクラスに転校してくるとなった時,それを喜んで受け入れることはできますか。

人権問題は,遠くにいるかわいそうな人の問題ではなく,自分の隣人,自分の家族の問題であり,自分自身の問題であるということを一人ひとりが身につけることが重要です。

その意味では,行政やPTA,町内会などで行われている人権講演会が,遠くにいるかわいそうな人が頑張っている話(24時間テレビ的な感動ポルノ)が多いのはダメだと思っています。


参考までに

国立ハンセン病資料館「キッズコーナー」http://www.hansen-dis.jp/kids/qa.html

ザ・ドキュメント「閉じ込められた命 語り始めたハンセン病家族たち」(関西テレビ 2017.7.8)https://www.ktv.jp/document/170708.html


第1 ハンセン病問題

1 差別が生じた経緯

ハンセン病問題とは、病気の原因や治療法の問題ではなく差別の問題。

ハンセン病自体は感染力が弱く、感染しても発病するには稀。発病しても特効薬により治療が可能。

1905年頃 光田健輔(東京市養育委員官)「癩(ハンセン病)患者の存在は国家の恥辱であり、公衆衛生上の有害物である」→隔離すべき

1907年 「癩予防ニ関スル件」制定(隔離政策の最初の根拠法)

1926年 高野六郎(内務省衛生局予防課長)「民族浄化のために」

1931年 癩予防法制定(旧法)→自宅療養していた患者も全て強制収容・隔離の対象とする→収容すべき療養所設置

1936年 20年根絶計画→無らい県運動

2 無らい県運動

患者を摘発し療養所に送り込む官民一体運動

近所の人による密告→警察や地元自治体の入所勧奨(強制)

なぜ密告するか←国が「恐ろしい伝染病」であり地域社会に脅威をもたらす危険な存在との認識を強く根付かせた。

→国の政策により、ハンセン病は恐ろしい病気、地域から排除すべきと煽り、差別・偏見を受け付けた。

→結果として90年間、隔離政策が継続された

白衣とマスクの仰々しい格好をした人達と警官が無理やり患者を家族から引き離し近所の方が見る中、患者を連れて行く。患者の家は真っ白になるまで消毒をされる。患者は療養所に入り二度と家には帰れず、残された家族は地域で差別を受け続けることになる。

3 療養の内容

療養とは名ばかりの強制作業(症状が悪化し指を失くしてしまう)

1916年 園長に懲戒結束権(1956年まで)→重監房(特別病室)逃走防止のため

園の中でしか使用できないお金

1947年 プロミンによる治療開始→完治する病気に→旧法の改正運動が起こる→しかし三園長が隔離政策の強化を求めた。

1948年 優生保護法1条「優生上の見地から不良な子孫の出生を防止する」→ハンセン病患者への優生手術(断種、堕胎、生まれてきた子は殺害)。4組の夫婦を同じ部屋で生活させる。結婚の条件は断種。生まれた子はそのまま殺される。

1952年 WHOは隔離政策の見直しを提言

1953年 らい予防法(新法)→従来の隔離政策を維持

1956年 ローマ国際会議→らい予防法廃止勧告

1959年 WHO専門委員がハンセン病に関する特別法の廃止を提唱

1995年 90年続いた隔離政策をようやく見直し。菅直人厚生大臣「お詫び」

第2 ハンセン病国賠訴訟

2001年熊本地裁判決

「同原告は、退所を全く考えたことがないという。未だ社会性が育まれない八歳という幼少の時期に肉親と引き離され、孤島でほとんど外界に接することなく大人になった同原告が、このような心境になるのは、まさに隔離そのものがもたらした結果というべきである」

「人生被害」

国の控訴断念

「太陽は輝いた 九十年 長い長い暗闇の中 ひとすじの光が走った 鮮烈となって 固い巌を砕き 光が走った 私は俯かないでいい 光の中を 胸を張って歩ける もう私は俯かないでいい 太陽は輝いた」(原告)

第3 その後

1 黒川温泉事件(2003年)ホテルから拒否されるばかり一般の市民から元患者に向けられた激しい罵詈雑言https://www.jlf.or.jp/work/pdf/houkoku/saisyu/18.pdf2

福岡の小学校教諭による間違った教育(2014年)https://www.nikkei.com/article/DGXNZO72359380W4A600C1CC0000/

第4 家族訴訟

1 国の差別政策

優生保護法→ハンセン病患者の子を法律上「不良な子孫」と位置づけ「未感染児童」としての位置付け→療養所に附置された「保育所」で療育常時監視の対象とした

2 家族の被害

地域や学校における徹底的な排除学校で唾を吐きかけられる、学校で地域で罵詈雑言を浴びせられる、一人だけ隔離される、教師もそれを助長する。

1950年 熊本県八代市の親子心中事件

1951年 山梨県一家9人無理心中事件

1953年 黒髪小学校PTA事件(PTAによる元患者の子の入学阻止行動)

→聞き取りをしていて「覚えてない」「思い出せない」という原告が多い。記憶を封印してしまい、本当に思い出せなくなっている。

家族のことを隠して生きていく

・友達に話せない→離れて行ったらそれまでと常に諦めている

・結婚相手に話せない→相手に理解があってもその家族はどうか

・子どもに話せない→重荷を背負わせたくない→家族の中で秘密を抱えることの苦しさ家族関係の構築が阻害される

・幼いころに引き離されて健全な家族関係を築くことができない。

・患者である家族を恨む

・夫婦関係の悪化→家族の被害は見えにくい

家族訴訟の意義

2016年2月 提訴(30歳代〜90歳代の原告568人)→僕らと同世代、僕らよりも若い世代が差別を受けてきていた。そのことを僕らは知らなかった(目を向けてこなかった)。

・国の責任を明らかにする

・社会の側の責任を明らかにする

・家族の被害の回復

国の主張

・国のハンセン病政策は患者本人に向けられたものであり、家族を対象にはしていない→家族に被害はない。

・家族に被害があったとしても時効により消滅

2019年5月31日 判決


来週(2/5)のterra cafe kenpouはお休みです。

再来週は,ルワンダで内戦で手足を失った人々のために無償で義足を作り続けるルダシングワ真美さんを講師にお話を伺います。

いつもと日時と会場が異なりますので,ご注意ください。


日時  2月11日(月休)15:00-16:30

場所  福岡市NPOボランティア交流センターあすみん(福岡市中央区今泉1-19-22天神クラス4階)

テーマ アフリカの障害者支援NGOムリンディ/ジャパン・ワンラブ・プロジェクト活動報告

講師  ルダシングワ真美さん・ガテラさん

参加費 1000円


【今後の予定】terra cafe kenpouの今後の予定をおしらせします。https://ohashilo.jp/lawyer/goto/active/terra-cafe-kenpou/

特に記載がない限り火曜日19時〜光円寺門徒会館(天神3丁目15-12)です。

予定は入れ替わるかもしれません。下記サイトでスケジュールをご確認ください。

なお急遽会場変更になることもございます。変更の場合は下記サイトでご案内します。https://ohashilo.jp/blog/

2月5日 お休み

2月11日(月・休)15:00 福岡市NPOボランティア交流センターあすみん「アフリカの障害者支援NGOムリンディ/ジャパン・ワンラブ・プロジェクト活動報告(ルダシングワ真美さん・ガテラさん)」1000円https://www.facebook.com/events/1813240825454753/

2月12日 お休み

2月19日 戦争と子どもたち〜学童疎開、戦後の浮浪児〜

2月26日 調整中

3月5日 お休み

3月12日 調整中

3月19日 調整中

3月26日 調整中

4月2日   調整中

4月9日   調整中

4月16日 LGBTと制服(後藤富和・弁護士)予定